はじめに
厚生労働省は、令和6年6月21日付で『雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案概要(人材確保等支援助成金の特例措置関係)』を発表しました。これには、昨年8月に厚生労働省が発表した通達に記載された数値に誤りがあったことが判明したことにより、派遣元企業(派遣会社)が当該数値を用いて派遣労働者の待遇水準を定めていた場合の対応について記載されています。
例年8月には、翌年度の派遣労働者の賃金水準について厚生労働省職業安定局長の通達が発表されており、派遣会社は、派遣労働者の同一労働同一賃金に対応するにあたっては、この通達に適合する待遇水準を確保することが必要です。通達に記載された通知の訂正が生じたことにともない、派遣会社においても一部の派遣労働者に適用している待遇水準に修正が生じることとなります。
厚生労働省:派遣元・派遣先事業主の皆さまへ「ハローワーク別地域指数」を訂正しました
派遣労働者の同一労働同一賃金を図るしくみ
派遣労働者の賃金水準は、『派遣先均等・均衡方式』と『労使協定方式』のいずれかによる待遇の設定により、派遣労働者の同一労働同一賃金を図ることとが派遣法で定められています。
派遣先均等・均衡方式は、派遣社員の待遇を派遣先企業で同じ仕事をしている従業員と同等にする方式により、派遣先企業で働く通常の労働者(正社員)との同一労働同一賃金を図るしくみであるのに対し、労使協定方式は派遣元企業(派遣会社)と派遣会社の従業員代表との間で締結する労使協定で定めた水準以上の待遇を設定することにより全国の同職種・同業務に従事する労働者との同一労働同一賃金を図る点が異なります。
労使協定方式による派遣労働者の待遇水準の設定方法
労使協定方式により派遣労働者の賃金水準を定める派遣会社は、全国の派遣会社の9割程度を占めると言われています。派遣元企業(派遣会社)は、派遣法労使協定方式によって派遣労働者の同一労働同一賃金を確保する場合は、基本的に(1)地域指数、(2)職種別の基準値、(3)能力・経験調整指数を用いて賃金水準を決定します。
(2)職種別の基準値、(3)能力・経験調整指数は、厚生労働省の局長通達に記載された数値を用い、(1)地域指数は同通達で定められた派遣先事業所の管轄ハローワーク別の地域指数または都道府県ごとに設定された指数のいずれかを用いることとなります。
大まかな把握として、(2)(3)は全国的な数値であり、これに地域の賃金や生活の水準等を加味した修正値として(1)地域指数を乗じて、派遣労働者が働く地域に適合させるかたちで派遣労働者の賃金水準を労使協定に定めることとなります。
修正が生じた指数【ハローワーク別の地域指数】
厚生労働省によると、令和5年8月に発表された局長通達で発表されていた(1)地域指数のうち、管轄ハローワーク別の指数に誤りが生じたことにともない、上記の計算式により算出した派遣労働者の賃金水準に修正の必要が生じたとのことです。なお、ハローワーク別地域指数は、全国に434カ所あるハローワークのうち275カ所分の間違いが生じていました。
労使協定の再締結へ向けた公的支援
ハローワーク別地域指数の修正により、これを使用して派遣労働者の賃金水準を労使協定に定めていた派遣会社は、このうち地域指数にハローワーク別の地域指数を用いていた場合には、数値の修正と、それに伴う賃金水準の修正、それらを記載して締結した派遣法労使協定の再締結が必要となります。
厚生労働省は、派遣会社の修正対応に対する支援策として【人材確保等支援助成金の暫定措置の創設】により、賃金制度の整備・改善等に伴う経費を支援することを発表しました。
派遣会社1社あたりの助成額は、労使協定の整備に係る基本経費(定額5万円)に、雇用する派遣労働者の人数に応じた定額(1人につき1万円)を加えた額としますが、これを超える額となる場合は実費を支給することとされています。
おわりに
各種雇用関係助成金には、要件や必要な手続き等についてまとめた支給要領があります。ハローワーク別地域指数に修正が生じたことに伴い新設される人材確保等支援助成金の暫定措置については、投稿日時点では今後所要の規定の整備を行うことが発表されており、詳細は発表されておりません。早ければ令和6年6月 28 日に詳細が公布されるとのことですので、ハローワーク別地域指数により令和6年度の派遣法労使協定を既に締結していた派遣企業様は、今後厚生労働省から発表される詳細をご確認下さい。
助成金のご活用や労使協定の整備について、どうしたらよいかお考えの企業様は、当事務所までお気軽にお問合せ下さい。