1.時間単位年休とは
労働基準法では、労働者の心身の疲労回復を図るため、企業が、労働者に対して毎年一定日数の有給休暇を与えることを義務付けています。この一環として、労働者が年次有給休暇を1時間単位で、年に最大5日間まで取得できる制度を時間単位年休といいます。この『1時間単位』というのは、最小の取得単位であり、2時間や3時間と組み合わせて利用することも可能です。
2.時間単位年休のメリットとデメリット
(1)メリット
年次有給休暇を、時間単位で利用できるようにすることで、繁忙期でも労働者が通院や子どもの学校行事、介護などの私的な用事に対応可能になります。時間単位年休は、労働時間の途中に使用することもできるため、労働者にとって利便性が高く、休暇取得の選択肢が広がり、ワークライフバランスの向上に寄与します。
(2)デメリット
時間単位での取得が増えると、1日単位での休暇が減少し、労働基準法が意図する労働者の疲労回復の意味合いが薄れる可能性があります。また、年次有給休暇の管理を電子システムで行っていない企業の場合、残日数・時間数の把握に手間がかかることも一つの課題です。
3.時間単位年休を導入するための手続き
企業が時間単位年休制度を導入する場合は、次の手続きが必要です。
- 就業規則への規定・労働基準監督への届出(常用労働者数10名以上)
- 労使協定締結(従業員数を問わず全ての企業・労働基準監督署への届出不要)
労使協定には以下の事項を定めることが必要です。
①時間単位年休の対象労働者の範囲
特定の業務性質上、時間単位年休を適用することで業務の正常な運営が妨げられてしなうような場合(例:一斉に流れ作業を行う工場労働者など)には、対象者を限定することが認められます。なお、「体調不良の場合のみ時間単位年休を取得できる」などのように利用目的を限定することはできません。
②時間単位年休の日数
前年度からの繰り越し分を含めても年間5日が上限です。例えば、所定労働時間が8時間の場合、1年目の時間単位年休は最大40時間です。2年目に未使用の時間単位年休20時間が繰り越された場合は、その年の使用可能日数と時間の計算が必要です。
③時間単位年休1日の時間数
1日分の有給休暇が何時間に相当するかを定めます。1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げて計算します。例えば、1日の所定労働時間が7時間半である場合は、7時間半を時間単位に切り上げて1日8時間(8時間×5日=40時間分が1年に利用できる時間単位年休の上限)となります。
なお、日によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1日平均所定労働時間数を用いて時間単位年休の時間数を算出します。
④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間
2時間や3時間を単位として時間単位の取得を認める場合には、その旨を労使協定に定めます。ただし、1日の所定労働時間を上回ることはできず、また、1時間未満の単位を定めることもできません。
4.よくある質問(FAQ)
時間単位年休の取得日や時間帯の変更を労働者に求めることはできますか?
複数の労働者の有給休暇取得希望日が重なることなどによって、当日の事業運営に支障が生じるおそれがあるとき、企業は、労働者に取得時期をずらすように求めることができます。ただし、時間単位年休を1日単位年休に変更して取得するように求めるなど、取得単位を変更することまでも求めることはできないと解釈されています
時間単位年休を年5日以上取得義務に含めることはできますか?
企業には、年に10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、時季を指定して年5日以上の年次有給休暇を取得させることが義務づけられています。行政解釈では、この『年5日以上』には、時間単位年休で消化した年次有給休暇を含めることはできないとされています(平成30年12月28日基発1228第15号)。
5.おわりに:従業員のワークライフバランス向上へ
時間単位年休制度を導入するためには、法令の要件を満たす必要があるため難易度が高いと考える企業さまもいらっしゃるかもしれません。しかし、時間単位年休制度があることで、従業員の休暇取得の選択肢が広がり、職場満足度向上につながります。さらに、求人の際にワークライフバランスに取り組む企業姿勢をアピールすることも可能になります。
時間単位年休制度の導入をご検討の企業さまは、厚生労働省が実施している『働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)』の利用により、制度を導入しやすくなることが考えられます。
エスマイル社会保険労務士事務所では、法令基準をふまえた働き方の整備に難しさを感じていらっしゃる企業さまを丁寧にサポートいたします。ご疑問点などがありましたらお気軽にお問合せ下さい。