拡充された助成金【育休中等業務代替支援コース】
令和6年12月17日に令和6年度の補正予算が成立したことに伴い、両立支援等助成金のルールが改正され、支給額や対象となる企業の要件などが拡充されています。両立支援等助成金には6つのコースがありますが、このたび拡充されたのは「出生時両立支援コース」と「育休中等業務代替支援コース」です。
出生時両立支援コースとは、男性の育児休業取得を促進するものであり、育休中等業務代替支援コースとは、育児中の業務体制の整備を支援するものです。今回の記事では、「育休中等業務代替支援コース」について簡単に解説いたします。
両立支援助成金の概要と各コース
仕事と育児、介護が両立できる職場環境づくりを目的とした助成金です。投稿日時点では、下記の6コースがあります。出生時両立支援コースと育児休業等支援コースは、従業員が育児休業を取りやすくするための体制を整え、育児休業を取得した労働者がいる事業主が対象になるもので、両立支援等助成金のなかでは活用したことのある企業が比較的多い印象です。
今回の記事で取り上げる「育休中等業務代替支援コース」は、以前は「育児休業等支援コース」のオプション扱いでしたが、令和6年1月に新設され独立した助成金制度になっており、出生時両立支援コースや育児休業等支援コースと合わせて申請することも可能です。
- 出生時両立支援コース
- 育児休業等支援コース
- 育休中等業務代替支援コース
- 柔軟な働き方選択制度等支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 不妊治療両立支援コース
育休中等業務代替支援コースとは
労働者が育児休業中や育児短時間勤務をする期間に、社内で生じる業務の空白を埋めるための支援制度です。育休中の社員やその業務を支える従業員の双方をサポートし、円滑な職場環境整備に資する助成金として注目されています。従業員の育児休業期間中に生じる業務の穴を埋める際に活用できる助成金であり、パターンが3つあります。
育休中等業務代替支援コースの3パターン
【パターン1】すでに在籍している労働者に育児休業取得者の業務を代替させる
【パターン2】すでに在籍している労働者に短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替させる
【パターン3】新規雇用者に育児休業取得者の業務を代替させる(派遣受入れ含む)
【パターン1】【パターン2】は、他の従業員が補完する際、代替業務斜に対しその負担に対する手当を支給することなどについて就業規則に定めたうえで手当を支給する場合が助成金の対象であり、【パターン3】については育児休業を取得する労働者本人またはその配偶者の妊娠(または養子縁組)の報告を受けた日以降に雇入れて場合などが対象です。
支給申請までのながれ
各種助成金には詳細な要件が定められており、助成金に取り組むにあたってのステップが定められているものもあります。育休中等業務代替支援コースにおける支給申請までのながれは下記のとおりです。
【パターン1】すでに在籍している労働者に育児休業取得者の業務を代替
- 業務代替者に対する賃金制度等の整備&業務効率化の取り組み
- 原職等復帰の取扱いを就業規則に規定
- 業務代替者への面談
- 【育児休業中】業務代替者に対する手当の支給
- 職場復帰
- 支給申請
【パターン2】すでに在籍している労働者に短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替
- 業務代替者に対する賃金制度等の整備&業務効率化の取り組み
- 業務代替者への面談
- 【短時間勤務の利用中】業務代替者に対する手当の支給① ※制度利用開始から1年ごとに支給申請
- 【短時間勤務の利用中】業務代替者に対する手当の支給② 制度利用開始から1年ごとに支給申請
- 【短時間勤務の終了後】最後の支給申請
【パターン3】新規雇用者に育児休業取得者の業務を代替させる(派遣受入れ含む)
- 原職等復帰の取扱いを就業規則に規定
- 新規雇用または派遣受け入れによる代替要因の確保
- 代替要員への賃金支払い
- 育休者の職場復帰
- 支給申請
補正予算で変わったこと【助成金額と要件】
令和6年度補正予算成立により、2024年12月17日から拡充された内容は次のとおりです。
企業規模要件が緩和【300人以下の事業主も支給対象】に
中小企業事業主のみが対象でしたが、【パターン1】すでに在籍している労働者に育児休業取得者の業務を代替と【パターン2】すでに在籍している労働者に短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替については、常時雇用する労働者の数が300人以下の事業主も対象になり、より多くの事業主が取り組めるようになりました。
助成額の増加
【パターン1】すでに在籍している労働者に育児休業取得者の業務を代替と、【パターン2】すでに在籍している労働者に短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替では、一定の場合に助成額が増額されます。育休中の業務代替者へ支給する手当支給等を就業規則に規定する業務と、業務代替期間に備えて業務見直しおよび効率化の取組みを社労士に委託した場合、業務体制整備経費が5万円から20万円へ増額され、最大140万円が支給されます(パターン2の場合は最大で128万円)。
2024.12.17前 | 2024.12.17以降 | ||
【パターン1】すでに在籍している労働者に育児休業取得者の業務を代替 ①+②で最大140万円 |
① 業務体制整備費 | 5万円 | 20万円 ※社労士への委託がある場合 (委託なしの場合6万円) |
② 業務代替手当 | 支給した手当×4分の3 ※上限計10万円/月 ※12ヶ月まで |
同左 | |
【パターン2】すでに在籍している労働者に短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替 ①+②で最大128万円 |
① 業務体制整備費 | 2万円 |
20万円 |
② 業務代替手当 | 支給した手当×4分の3 ※上限計3万円/月 ※最大子が3歳になるまで |
同左 | |
【パターン3】新規雇用者に育児休業取得者の業務を代替させる(派遣受入れ含む) | 代替期間に応じて最大67.5万円 ・6ヶ月以上:67.5万円 ・3ヶ月以上~:45万円 ・1ヶ月以上~:27万円 ・14日以上~:13.5万円 ・7日以上:9万円 |
職場復帰時まで待たずに申請可能に
<パターン1>の場合、業務代替者の手当支給等の賃金規程などの整備と、業務見直しおよび効率化の取組みを社労士へ委託した場合、上記のとおり助成額は最大で140万円となりますが、そのうち最大30万円については、育休者の職場復帰まで待たずに支給申請することができます。
<パターン2>の場合は、最大で128万円、そのうち最大23万円が、育児短時間勤務開始後に先行して支給申請することができます。
おわりに:休業を取得しやすい職場
厚生労働省が、全国 18-25歳男女 高校生・大学生などの学生若年層を対象に、2024年6月に行った調査結果「若年層における育児休業等取得に対する意識調査(速報値)」によると、若年層の87.7%が育休を取得したい(男性84.3%、女性91.4%)と回答しており、「就職活動で企業の育休取得情報を重視する」割合は69.7%(女性76.7%、男性63.3%)との回答を得ています。
また、別の統計では、男性が育児休業を取得しない理由の1位に「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」、2位に「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」、3位に「男性の社員や有期契約の社員の育児休業の取得について、会社や上司、職場の理解がなかったから」という理由があがっています。※「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(平成30年度)より。
育児介護休業法には、育児や介護と仕事を両立するための様々な制度が定められていますが、職場に由来する事情によ制度が活用しくくなっている状況があり、場合によっては育児や介護による離職につながることが懸念されます。人手不足のなか、休業の取得実績のある企業は採用面で好効果も期待できるため、企業には休業を取りやすい環境にするための取り組みが求められています。
この度の助成金制度の拡充は、育児休業や短時間勤務をする従業員を支える周囲の従業員を労い、支援するのに役立てることができます。育児休業や短時間勤務制度をする予定がある事業所様は、ぜひ活用をご検討下さい。
当事務所は、助成金申請のサポートのほかにも、2025年4月1日と10月1日の2段階で改正がスタートする育児介護休業法の対応を支援しています。法令対応や助成金についてのお問い合せやご質問はお気軽にお寄せください。