はじめに
助成金についてのお問い合わせをいただくときに、
「正社員化した人がいますが、キャリアアップ助成金の正社員化コースの申請を依頼したい」
「育児休業を取った人がいるので、両立支援等助成金育児休業等支援コースの申請を依頼したい」
というお話をいただくことがあります。
もちろん、そのような従業員がいたという事実があること自体は大切です。
ただ、一般的に助成金は、あとから「該当しそうな人がいたから申請できるだろう」という考えで申請できるものではありません。 この記事では、助成金申請にあたって企業が事前に把握しておきたいことを解説します。
助成金は「実績がある」だけでは足りない

厚生労働省の助成金は、制度ごとに、会社側があらかじめ整えておくべきルール、実施しておくべき取組、提出や公表が必要な手続、保管しておくべき記録などが定められています。
そのため、実際に正社員化した人や育休取得者がいても、事前の制度整備や必要な取組が不足していると、申請が難しくなることがあります。
たとえば、正社員化に関する助成金では、正社員転換制度が就業規則等に定められていることや、そのルールに沿って転換が行われていることが重要になります。
そのため、実際に正社員化した人や育休取得者がいても、事前に助成金申請に対応できる労務管理の整備が不足していると、申請が非常に難しくなることがあります。
たとえば、正社員化に関する助成金であれば、正社員転換制度が就業規則等に定められていること、転換のルールが明確になっていること、そのルールに沿って実施されていることなどが重要になります。
育児関係の助成金でも、育児に関する制度整備、一般事業主行動計画の策定・届出・公表・周知、必要な面談や取組の実施など、事前に確認しておくべき事項があります。
つまり、助成金は「対象になりそうな人がいたから申請するもの」というより、助成金申請に対応できる労務管理の土台が整っているかを確認するところから始まります。
会社が事前に確認しておきたいこと

(1)規則や制度が、必要な内容まで整っているか
よく、「自社には就業規則があるから、助成金の申請にもそのまま使えるのでは?」というご質問があります。
しかし、就業規則があるだけでは足りず、各種助成金の要件に関わる制度やルールが適切に定められ、その内容に沿った運用になっていることが大切です。
たとえば、正社員と非正規社員の区分や待遇、正社員転換制度、育休に関する規定として定めた内容などが曖昧だと、申請後に労働局から要件確認を受けた際に、要件を満たしていることを合理的に説明しにくくなることがあります。
(2)規則どおりの運用ができているか
規則が整っていても、実際の出勤簿や労務管理の実態が規則どおりになっていなければ、助成金申請の場面で整合が取れなくなります。
「ずいぶん前に作成した就業規則はあるが、実際の運用は違う」という状態では、申請後に労働局から運用実態の確認を受けた際に、規則どおりの運用が行われていると説明することが難しくなることがあります。
(3)賃金台帳や雇用契約書の内容が整合しているか
賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、労働条件通知書の内容にズレがあると、助成金の要件確認で問題になることがあります。
助成金は申請書だけで判断されるものではなく、実態に基づく帳簿や契約書類、制度ごとに求められる資料も含めて確認されます。
そのため、申請時になって慌てるのではなく、あらかじめ労務管理全体を確認しておくことが大切です。
(4)助成金のためだけの運用になっていないか
助成金の種類によっては、一定の規定内容が就業規則に定められていることが要件のひとつになっているものもあります。例えば、正社員転換制度の詳細や育休に関するルールを就業規則に定めたうえで面談等の取組を行うことを就業規則に定めるというものです。ここで把握しておきたいのは、就業規則に定めるということは、定めた内容が会社のルールになるということです。 そのため、助成金の対象になりそうな従業員だけに運用すればよい、というものではありません。
助成金申請の有無にかかわらず、会社の制度として継続的に運用できる内容かどうかを確認しておく必要があります。
必要な取組を、必要なタイミングで実施できているか

助成金の種類によっては、面談、試験、計画届の提出、公表、計画作成、制度周知などを、一定の時期までに行っておく必要があります。
実際に正社員化した人や育休取得者がいても、その前提となる取組が必要な時期に行われていなければ、申請が難しくなることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
- 正社員転換制度は規則にあるが、転換時の試験や面談の記録がない
- 育休取得者はいるが、必要な計画や公表、取組実施の記録が残っていない
- 就業規則等の規定内容の整備や、賃金台帳・出勤簿などが未整備なまま進めている
助成金は、申請書だけで完結するものではありません。
取組実施時の記録、法定帳簿、就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿など、複数の資料をもとに確認されます。
そのため、申請を検討する段階で、各助成金の支給要領と自社の労務管理の状態を照らし合わせておくことが大切です。
まとめ
助成金は、正社員化した人がいる、育児休業を取得した人がいる、という事実だけで申請できるものではありません。
必要な制度が規程に定められているか、規程どおりに運用されているか、必要な手続や取組が適切な時期に行われているか、記録や法定帳簿が整っているかまで含めて確認する必要があります。
助成金の検討は、申請書の作成以前に、就業規則、帳簿、制度運用、必要書類が整っているかを確認するところから始まります。
就業規則や社内制度の見直しが必要な場合は 就業規則作成・見直しページ を、自社の労務管理や制度運用の整理も含めて見直したい場合は 労務顧問ページ や 助成金サポートページ もあわせてご覧ください。