はじめに
令和7年度がスタートし、厚生労働省から「令和7年度地方労働行政運営方針」が発表されました。この方針は、各都道府県労働局がその年度に重点的に取り組むべき方向性を示すものであり、企業の労務管理とのかかわりがある施策がまとめられています。
今年度の方針では、カスタマーハラスメントなどの総合的なハラスメント防止対策の推進や仕事と育児・介護の両立支援の推進、安全で健康に働くことができる環境づくりとして長時間労働の抑制など、さまざまな労務課題への対応方針が挙げられているほか、「賃上げ」支援助成金パッケージの周知強化が盛り込まれています。
今回は、こうした国の方針に照らして、企業の実務に関係が深い「賃上げ」支援助成金パッケージについて、簡単にご紹介します。
“賃上げ支援パッケージ”とは?
厚生労働省の「賃上げ」支援助成金パッケージは、企業の生産性向上や人材育成などの取り組みを通じた賃上げの実現を後押しする制度として整備されています。
賃上げに対する企業の目的はさまざまであり、たとえば、最低賃金引き上げへの対応、人手不足の解消、働き方の見直し、制度改定を通じた処遇改善などの状況に応じた支援が求められています。賃上げ支援パッケージでは、こうした多様な企業ニーズに対応するため、複数の助成金制度が整備されています。
以下は、特に中小企業・小規模事業者にも活用されやすく、よく取り組まれている助成金制度です。
キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者の正社員化や賃金規定の改定による賃上げ、賞与・退職金制度など、企業が取り組む処遇改善の種類に対応して複数コースが用意されています。代表的な制度は正社員化コースですが、<賃金規定等改定コース>では、非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合が助成対象。正社員化とまではいかないけれども、待遇の改善を図ることで人材を確保したいと考える企業のニーズに対応可能な助成金コースです。
働き方改革推進支援助成金
業務効率化に取り組むことで、働き方の改善を図る企業を支援する助成金制度。生産性向上に資する機械・設備投資等に要する経費の一部を助成するものですが、機械・設備投資等とあわせて賃上げを行う場合には助成額の加算措置もあります。時間外・休日労働の削減、新たな休暇制度の導入、勤務間インターバルの新規導入または対象者の拡大など、企業の状況に応じて複数のコースが用意されています。
業務改善助成金
事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げるために、生産性向上に取り組む中小企業を支援する助成金制度。機械・設備の導入など業務効率化に取り組んだ場合に、その経費の一部が助成されます。賃金引上げの対象者数と金額によって助成額が異なり、対象者は、地域別最低賃金との差額50円以内であることなどの要件があります。
そのほかの制度について
上記以外にも、賃上げ支援パッケージには、たとえば職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させることを目的とするものなどもあります。各制度には、対象となる取組や要件が細かく設定されているため、事前に制度の概要を把握し、自社に合うかどうかを見極めることが重要です。
助成金は“申請前の準備”がカギです
企業の方針に合う助成金制度を見つけ、それを活用して生産性向上や人材の確保などを図りたいとお考えの企業の方も多いと思います。ただ、助成金制度には「専門的なルール」があり、事前準備の有無が申請結果を左右するケースが少なくありません。
たとえば、「賃上げ」や「機器購入」などの取組を行う前に、制度の詳細な要件を確認しておく必要があります。そのうえで、各助成金コースの要件を満たした規定を盛り込んだ内容に就業規則を改定するなど準備が必要です。
要件の誤解による申請ミスや、準備不足などによる不支給は意外と多く、「やってからでは間に合わない」こともあるため、注意が必要です。
「うちは対象?」と思ったら
「自社の状況が対象になるのか、何が足りないのかを確認しておきたい」
そう思われたら、一度、専門家へご相談いただくのも一つの方法です。
制度をうまく活用するためには、「制度を使える状態をつくる準備」が大切です。