はじめに
派遣スタッフの賃金水準は、派遣企業が採用する次のいずれかの方式により同一労働同一賃金が図られています。
- 派遣先均等・均衡方式(派遣法第30条の3)
- 労使協定方式(派遣法第30条の4)
派遣企業は、第一次的には派遣先均衡・均等方式により派遣先企業の正社員との均等・均衡待遇を確保することとされています。ただし、派遣企業が自社の労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結している場合には、派遣スタッフの待遇は、労使協定に定められた水準により設定されることとなります。
派遣先均等・均衡方式とは
派遣先均等・均衡方式とは、派遣先の正社員と派遣スタッフとの均等・均衡待遇を確保するものです。派遣スタッフの職務内容や配置の変更範囲が、派遣先の正社員と同じであれば、基本給・賞与・通勤手当・福利厚生などの手当を不利なものとならないように賃金を設定することとなります。なお、職務内容や配置の変更範囲が同一と判断されない場合には、違いに応じた待遇水準を設定することが求められます。
労使協定方式とは
労使協定方式とは、派遣先の事業所等がある地域内で働く一般企業の正社員の平均的な賃金額をもとに派遣スタッフの待遇水準を決定する方式です。この平均的な賃金額は『賃金構造基本統計調査』と『職業安定業務統計』から導き出されており、厚生労働省から毎年8月に発表される局長通達において詳細が定められています。
これに基づいて、派遣会社は「職種別の賃金×能力・経験調整指数×地域指数」に、企業ごとに定めた退職金や通勤手当の支払方法により「通勤手当」「退職金」の全部又は一部を合算して賃金水準を設定することとなります。
厚生労働省から発表された令和7年度に適用される局長通達
令和7年度の労使協定方式を対象とする「局長通達」が発表されています。職種別の賃金額や、賃金水準の算定に用いる指数等も更新されており、派遣企業はこれらの変更点を踏まえて賃金水準を設定し、労使協定に定める必要があります。
通勤手当
通勤手当として支給される賃金を時給換算した額が、局長通達に定める金額以上となるように設定することが必要です。令和6年度は、1時間あたり「73円」(令和6年度は1時間あたり「72円」)以上と定められています。
職業分類の改定
賃金水準を職種ごとに設定するにあたり、個々の派遣スタッフがどの職種に属するかについては「職業分類表」をもとに判断することになります。
例えば、医療事務員(調剤薬局を除く) については『病院・診療所において、診療報酬明細書(レセプト)の作成、外来診療の受付、 診療費の請求、入退院の手続き、診療情報・診療録(カルテ)の管理などの仕事に 従事するものをいう。』と定められており、これに該当する場合は、『賃金構造基本統計調査』と『職業安定業務統計』のいずれかに記載された『医療事務員(調剤薬局を除く)』の賃金水準を採用して賃金水準を適用することとなります(職業安定業務統計による令和7年度の基準値・経験年数0年の場合1,037円)。なお、職業安定業務統計の職種分類が改変されており、令和7年度適用の労使協定からは改定後の職業分類を基に賃金額を設定する必要があります。
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過去記事【職業分類改定】派遣労働者の賃金設定への影響
派遣法労使協定の改正について解説いたします。派遣会社様が、令和7年度以降の派遣法労使協定を作成するときには是非とも留意しておきたい内容です。
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能力・経験調整指数の改定
派遣スタッフの賃金水準は、局長通達において『一般の労働者の勤続何年目相当に該当するかを考慮して適切に設定』することと記載されています。『医療事務員(調剤薬局を除く)』の令和7年度の基準値・経験年数0年の場合の賃金水準は1,037円ですが、これに能力・経験調整指数を乗じて賃金額を設定することが必要です。令和7年度の労使協定に適用される能力・経験調整指数は以下のように改定されることが決まっています。
0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 |
100.0 | 116.0 | 124.3 | 127.0 | 133.0 | 149.4 | 179.3 |
地域指数
『賃金構造基本統計調査』と『職業安定業務統計』に定められた賃金水準は、全国計を100として示されたものであり、これに派遣就業場所の地域の物価等を反映した賃金水準を設定するために用いる指数が、地域指数です。地域指数は、派遣先就業場所が所在する都道府県ごと、あるいはハローワークごとの地域指数を用いることとなります。地域指数についても、毎年変更されていますので確認することが必要です。
参考:令和7年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等 に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する 一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について
おわりに
毎年10月~11月には、地域別最低賃金が改定されます。これに伴い、派遣労働者に支給する賃金額(職種別の賃金×能力・経験調整指数×地域指数)が最低賃金額以上となっているかの確認も不可欠です。
当事務所が所在する福岡県では、令和6年10月5日を発行日として時間当たりの地域別最低賃金額が992円になります。派遣会社と派遣労働者の有期雇用契約が10月をまたいだ期間である場合であっても、地域別最低賃金の発効日以降の勤務に対しては雇用契約に定めた賃金額ではなく、最低賃金額以上の賃金を支払う対応が必要です。
人事労務に関するご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。