はじめに
毎年10月から11月にかけて、都道府県ごとの地域別最低賃金が改正されます。当事務所が所在する福岡県では、発効日である令和6年10月5日(土)からの労働に対し、最低賃金992円(時間あたり)が適用されることが決まっています。企業は、最低賃金の発効日以降の労働に対し、改正された最低賃金額以上の賃金となるように設定して給与を労働者に支払わなければなりません。
事業主には、改正された最低賃金額以上となる賃金支払いが義務付けられるのとは別に労働者に最低賃金について周知する義務があります(最低賃金法第8条)。今回の記事では、最低法で定められた周知義務について詳しく説明いたします。
最低賃金法で定められた周知事項
最低限の法第8条では、事業主が労働者に対して、最低賃金に関する一定の事項を周知するように義務づけています。
最低賃金法第8条
最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
厚生労働省令では、最低賃金の概要として次の事項を挙げています。
- 適用を受ける労働者の範囲
- 上記1の労働者に係る最低賃金額
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
- 効力発生年月日
周知事項の詳細
適用を受ける労働者の範囲
地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態にかかわらず、原則として全ての労働者とその使用者に適用されます。例外として、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可をあらかじめ受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています(最低賃金法第7条)。
最低賃金法第7条:最低賃金の減額の特例
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方 5.断続的労働に従事する方
労働者に係る最低賃金額
厚生労働省から発表される地域別最低賃金の額は、時間あたりの賃金額となっています。労働者の給与が、月給、日給、時給、またはこれらの組み合わせにより支払われている場合は、時間あたりの賃金額に換算した額が、最低賃金額以上となっているかを確認しておきましょう。
最低賃金において算入しないことを定める賃金
最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外して計算することとなります(最低賃金法第4条第3項)。
- 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
- 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
上記1と2は、具体的に次の賃金を指します。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
上記以外に、最低賃金の計算から除外することが定められている場合は、それを周知する必要があります。
効力発生年月日
最低賃金の発効日は、都道府県ごとに定められています。企業は、発行年月日からの労働に対し、改正された最低賃金額以上となるように賃金を支払わなければなりません。仮に、給与の締切日が毎月20日である場合、9月21日~10月20日が1ヶ月の計算期間になります。10月5日が最低賃金の発効日である場合は、10月5日~10月20日に行われた労働に対しては改正された最低賃金額以上となるよう賃金を支払うことが必要です。
厚生労働省:令和6年度地域別最低賃金改定状況
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過去記事令和6年度最低賃金改定:企業に求められる対応と活用できる支援策
令和6年10月から施行される新たな最低賃金額は、全国的に見ても過去最大の引き上げ幅となっています。この改定により、労働者に対する適正な賃金の支払いを確保するための取り組みが求められます。
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周知方法と周知しなかった場合の罰則
最低額の周知は、事業場内の職場に掲示したり、社内メールやイントラネットを使って通知したりすることが一般的です。労働者が常時確実に認識できる手段で行うことが重要です。最低賃金法には、使用者が義務として労働者に上記事項を周知することが定められており(最低賃金法第8条)、周知しない場合には三十万円以下の罰金に処することが定められています。
最低賃金法第41条
次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第八条の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)
二 第二十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
三 第三十二条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
企業の人事労務管理をスムーズに進めるためにも、適切な方法により従業員に重要な情報を周知しましょう。
まとめ:義務の徹底を忘れずに
法令遵守は企業の信用にも影響を与え、従業員の士気低下や労働トラブルに発展する可能性があります。適切な対応を行い、罰則やトラブルを回避することが重要です。エスマイル社会保険労務士事務所では、給与計算代行業務または労務診断業務をご依頼いただきますと、最低賃金額を満たしているかの確認についてもあわせて行わせていただいております。現在の労務管理状況をチェックしてほしいというご要望にも対応可能ですのでお気軽にお問合せ下さい。