はじめに
育児に関する制度は、近年かなり話題になりやすくなっています。
一方で、介護については制度があっても、会社の中では「対象者が出てきたらそのとき考えればよい」と後回しにされやすい印象があります。
しかし、介護離職は決して珍しいことではありません。総務省の就業構造基本調査でも、介護・看護を理由とする離職者が一定数存在しており、介護は会社にとっても現実的な労務課題といえます。こうした背景も踏まえ、改正育児・介護休業法では、介護に直面する前の早い段階、いわゆる40歳前後の労働者に対して、介護休業制度等の情報提供を行うことが事業主に求められるようになりました。
この記事では、40歳前後への情報提供義務の内容を簡潔に整理したうえで、なぜ介護の備えが後回しになりやすいのか、そして、早期の情報提供ができていないと会社がどこで困りやすくなるのかを考えていきます。
40歳前後への介護制度の情報提供義務とは

改正育児・介護休業法(令和7年4月1日施行)では、事業主に対し、介護に直面する前の早い段階で、労働者へ介護休業制度等の情報提供を行うことが求められています。
40歳前後での情報提供が求められているのは、介護に直面する前の段階で制度理解を深めてもらい、いざというときに相談や申出につなげやすくするためです。
情報提供の対象時期は、たとえば次のいずれかです。
- 40歳に達する日の属する年度
- 40歳に達した日の翌日から1年間
情報提供事項としては、主に次の内容が挙げられます。
- 介護休業に関する制度や介護両立支援制度等
- 申出先
- 介護休業給付金に関すること
方法としては、面談、書面交付、FAX、電子メール等が認められています。 制度の骨組み自体は、そこまで複雑ではありません。
ただ、会社が困りごとに直面しやすくなるのは、制度の内容そのものよりも、このテーマが「まだ先の話」と受け止められやすく、実際の運用や相談の流れまで整わないままになりやすい点にあります。
なぜ介護制度の整備は必要と分かっていても進みにくいのか
介護への備えが進みにくい理由の一つは、会社側にとって、介護が「まだ先の話」と見えやすいことです。
育児は、採用や定着、人材確保の観点からも話題に上がりやすく、制度整備の必要性が意識されやすいテーマです。一方で介護は、対象となる従業員が今すぐ見えていないことも多く、「該当者が出たらそのとき考えればよい」となりやすい傾向があります。
また、就業規則を改定したことで「法対応はできた」と受け止め、実際の案内方法や相談体制まで整えていないことも少なくありません。
ただ、育児との大きな違いは、介護は直面する時期が特定しにくく、従業員がある日突然当事者になることもある点です。
そのため、備えが十分でないままだと、従業員だけでなく会社側も、ある日突然困りごとに直面しやすくなると考えられます。
早期の情報提供をしていないと、何がまずいのか
40歳前後の従業員への情報提供をしていないと、会社としては「制度は用意していた」と思っていても、介護に直面した従業員からすると、「何も知らされていなかった」「誰に相談すればよいか分からなかった」という状態になりやすくなります。
介護離職に関するデータを見ても、介護は会社にとって無視しにくいテーマです。
総務省の就業構造基本調査では、「介護・看護のため」に直近1年間に前職を離職した人は10.6万人とされています。
また、厚労省関連の調査(令和5年度)では、介護離職者のうち勤務先に相談したことがない人が約3割、介護開始から6か月未満の比較的早い段階で離職に至った人が約半数いることが示されています。

介護は、入院、認定申請、退院調整、ケアマネ探し、通院付き添いなどが短期間で一気に重なることもあり、必ずしも本人が「そろそろ親の介護が始まりそうです」と事前に計画的に会社へ相談できるとは限りません。
そのため、会社として「当事者が出たから今から体制を整えよう」としても、対応が間に合わないことがあります。
結果として、制度利用の前に、欠勤、遅刻早退、勤務調整の混乱、あるいは離職の方向へ進んでしまうこともあります。
「就業規則に介護制度は定めているから大丈夫」と考えていても、申出を待っているだけでは、実際の場面で制度が機能しにくいのです。
この状態のまま後からトラブルになると、会社としても次のような問題が生じやすくなります。
- 行政対応の面で説明しづらくなる
労働局から確認が入った場合に、対象者への情報提供の実施状況や記録の有無を示しにくくなることがあります。 - 従業員対応で不利になりやすい
「制度を知らなかった」「会社が教えてくれなかった」と言われたときに、会社側が対応状況を説明しにくくなります。 - 介護離職を防ぎにくくなる
本人が制度を知らないまま、いきなり退職を選ぶことがあります。介護休業は、介護そのものを長期間担う制度というより、介護体制を整えるための期間として使う制度ですが、知らなければ選択肢に上がりません。
単なる義務対応の問題というだけでなく、「制度はあるが、実際には使いにくい会社」と受け取られやすくなることも避けたいところです。
規則改定だけでは足りない理由
就業規則や育児・介護休業規程に制度を書き込むこと自体は大切です。
ただし、規則に書いてあるだけで、本人に必要な情報が届くわけではありません。
たとえば、
- 制度名だけ並べた案内で終わっている
- 申出先や相談窓口が明確になっていない
- 管理職が制度を理解しておらず、介護に直面した従業員への対応を誤ってしまう
- 介護に直面した後の個別周知や意向確認につながらない
という状態では、規則を改定していても、実際の運用は十分とはいえません。 介護は、制度の存在を知っているかどうかだけでなく、「この会社では、誰に、どう相談すればいいのか」が見えていることが大きいテーマです。
そのため、規則改定は出発点ではあっても、それだけで備えが完了したとは言いにくいのです。
会社が整えておきたいこと
会社としては、少なくとも次のような点を整理しておきたいところです。
- 40歳前後の情報提供を、誰に、いつ行うのか
- どの資料を使って案内するのか
- 誰が相談を受けるのか
- 介護に直面した後、個別周知や意向確認へどうつなげるのか
- どのように記録を残すのか
ここで本当に大切なのは、義務をこなすことそのものではなく、介護に直面した従業員が早い段階で会社に相談しやすい流れをつくっておくことです。
40歳前後への情報提供は、その入口づくりとして捉えると意味が見えやすくなります。
まとめ
介護は、育児ほど大きく取り上げられにくかったこともあり、会社でも備えが後回しになったり、見落とされたりしやすいテーマです。
しかし、介護離職や勤務調整の混乱は、実際に職場で起こり得る問題であり、しかも、いつ起こるかが予測しにくいこともあるため、本人からの申出を待っているだけでは間に合わないことがあります。
そのため、40歳前後への情報提供を、単なる法改正対応や規則改定の延長で終わらせず、相談しやすい流れづくりの入口として考えておきたいところです。
介護制度の情報提供や相談体制の整備を進めたい場合は
就業規則の見直しだけでなく、実際の案内方法や相談の流れまで含めて整えておくことが大切です。
介護を含む両立支援の体制づくりや、就業規則・社内ルールの見直しを進めたい場合は、労務顧問ページ や 就業規則・規程整備ページ もあわせてご覧ください。