はじめに
近年、女性の就労割合が高まる中で、企業には「女性の職業生活における活躍の推進」が一層強く求められるようになっています。こうした社会の流れを受け、令和7年5月20日には、女性が個性と能力を十分に発揮できる社会の実現を目的とした「女性活躍推進法」の改正案が衆議院で可決されました。
今回の改正では、女性の健康上の特性に配慮した職場づくりが新たな基本原則として盛り込まれることとなり、女性の活躍推進に向けた法的な後押しがさらに強化される見込みです。
この動きは、単に法令への対応にとどまらず、すべての働く人が安心して力を発揮できる職場環境の整備が、企業の持続的な成長にとって不可欠であるという、社会全体の認識の高まりを反映したものといえるでしょう。

なぜ今、女性の健康課題が注目されているのか
経済産業省の試算によると、月経随伴症や更年期症状、婦人科系の疾患、不妊治療など、女性特有の健康課題に起因する労働損失の経済的影響は、年間約3.4兆円にものぼるとされています。なかでも離職による損失額は約1兆3,800億円とされており、企業にとっても無視できない規模の影響が生じていることがわかります。
この試算は、健康課題を抱えながらも対処がなされていない層の人数に対し、欠勤率や業務パフォーマンスの低下率、離職率、平均賃金などの要素を組み合わせて算出されたものです。働く女性の数が年々増加する中で、こうした健康課題への配慮を求める声も確実に高まってきています。
月経痛や更年期障害、不妊治療といった症状は、一時的な体調不良にとどまらず、長期的に就業継続やキャリア形成に影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、職場での理解や対応体制が十分とは言えない現状が依然として存在します。
こうした背景には、女性従業員側に強い支援ニーズがある一方で、企業側では「支援の必要性は理解しているが、どのようにニーズを把握し、どのような対応をすればよいのか分からない」といった戸惑いがあることが挙げられます。このミスマッチが、支援の具体化を難しくしている大きな要因となっていることがわかります。

企業側の取り組み状況は?
2025年4月に経団連が公表した「女性と健康に関する調査結果」によると、大手企業を中心に、女性特有の健康課題に配慮した取り組みが着実に進められていることが明らかになりました。たとえば、「女性労働者の健康支援に取り組んでいる」と回答した企業は全体の95.8%にのぼり、以下のような取り組みが多く実施されています。
- 出産・育児休暇や短時間勤務など、仕事と家庭の両立を支援する制度(導入率:100%)
- 時短勤務・フレックスタイム制・時間単位の有給休暇など、柔軟な勤務体系の導入(99%)
- 家族の病気や介護による休暇制度など、家庭と仕事の両立支援(89.6%)
- 通院や治療と仕事の両立を可能にする柔軟な勤務形態の整備(74.0%)
- ワークライフバランスやライフプランニングに関する研修の実施(57.3%)
このように、健康面から女性の就業継続を支える制度整備は、今や多くの企業で標準的な取り組みになりつつあります。
一方で、中小企業ではこうした制度の導入がまだ進んでいないケースも多く、「何から始めればよいのか分からない」と悩まれている事業者様も少なくありません。
しかしながら、慢性的な人手不足が続くなかで、「働きやすい職場づくり」は、優秀な人材の確保や定着に直結する重要な経営戦略の一つです。 大がかりな制度整備が難しい場合でも、「できるところから始める」姿勢が、結果的に企業の信頼性や魅力向上につながっていきます。
助成金制度を活用した取り組みも可能です
「女性の健康課題に配慮したいが、費用や体制面での負担が心配……」そのように感じている企業様もいらっしゃるのではないでしょうか。そうした場合にご検討いただきたいのが、厚生労働省が実施している「両立支援等助成金」制度です。
なかでも「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」は、女性特有の健康課題に配慮した職場環境の整備を進める企業を後押しするために設けられた制度で、特に中小企業の取り組みに活用しやすい内容となっています。
このコースでは、従来からある不妊治療に対応した助成金に加え、2025年度からは月経(PMSを含む)や更年期障害など、女性の健康課題への配慮を目的とした取り組みも新たに支給対象となりました。

「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」は、このような企業様におすすめです
- 女性が安心して働き続けられる職場づくりを進めたい
- 不妊治療と仕事の両立を支援し、従業員の離職防止につなげたい
- 法令で義務づけられていない制度整備でも、自主的に働く環境の改善に取り組みたい
- 制度を「整備」で終わらせず、実際に活用されるような仕組みを定着させたい
必要な取組の一例
- 不妊治療や月経、更年期などの健康課題に関する相談体制の整備
- 時差出勤、短時間勤務、フレックスタイム制など、柔軟な働き方の制度整備
- 制度を従業員が5回以上実際に利用していること(対象制度:休暇制度/時差出勤/所定外労働の免除/短時間勤務/フレックスタイム/在宅勤務等)
助成額(いずれも1事業主あたり1回まで)
- 不妊治療のための両立支援制度を5日(回)利用した場合:30万円
- 月経に起因する症状への対応のための制度利用:30万円
- 更年期に起因する症状への対応のための制度利用:30万円
この助成金制度を活用することで、従業員の健康への配慮や柔軟な働き方の導入が進み、職場環境の改善や離職防止、人材の定着といった効果が期待できます。また、国の制度に基づいた支援を受けながら取り組みを進められるため、企業単独で負担を抱えずに制度整備を進められる点も大きな利点です。さらに、女性特有の健康課題に配慮した取り組みを行っていることは、採用活動において「女性が働きやすい企業」というポジティブな印象を与える強みにもなります。
結果として、働き手に選ばれる企業づくりに直結する施策といえるでしょう。
まとめ:小さな一歩が、企業の信頼につながります

「女性の健康課題への理解と配慮」は、決して女性だけの問題ではありません。これからの職場づくりにおいて、経営戦略の一部として捉えるべき重要なテーマです。将来の人材確保を見据えたとき、制度整備や意識啓発、そしてそれらを支援する助成金制度の活用まで含めて、ぜひ一度ご検討いただければと思います。
エスマイル社会保険労務士事務所では、助成金申請に向けた制度整備支援や就業規則の見直し等のご相談にも対応しております。「自社でも対象になるのか?」「何から始めればよいかわからない」といったご相談も歓迎しておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。