はじめに
2025年3月31日をもって、高年齢者雇用安定法に基づく“高年齢者雇用確保措置”の経過措置が終了します。これにより、希望するすべての従業員に対して65歳までの雇用機会を確保することが企業の義務となります。本記事では、厚生労働省が公表した「令和6年 高年齢者雇用状況等報告の集計結果 をもとに、全国の状況や企業が行うべき対応についてわかりやすく解説します。
高年齢者雇用確保措置の経過措置とは
高年齢者雇用安定法は、急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けることができる環境の整備を目的として、平成25年4月1日から施行されている法律です。この法律では、次の事項が定められています。
60歳以上定年
従業員の定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければなりません(高年齢者雇用安定法第8条)。
高年齢者雇用確保措置の実施
定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する義務があります(高年齢者雇用安定法第9条)。
- 65歳までの定年の引上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
「継続雇用制度」とは、雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する「再雇用制度」などの制度をいいます。この制度には、労使協定で定めた基準によって対象者を限定することが経過措置として認められていましたが、2025年3月31日をもって当該経過措置が終了となるのに伴い、事業主は上記の3つの高年齢者雇用確保措置のいずれかにより、希望者全員を65歳まで働ける機会を確保することとなります(65歳までの雇用確保措置が完全義務化)。
全国における高年齢者雇用確保措置の状況
厚生労働省の「令和6年 高年齢者雇用状況等報告の集計結果」によると、21人以上の規模を持つ中小企業の99.9%が、65歳までの雇用機会を確保する措置を実施済みです。その内訳を見ると、「継続雇用制度」を採用している割合が約67.4%(前年比1.8%減)であり、「定年の引上げ」により実施している企業は28.7%(前年比1.8%増)、また「定年制の廃止」により実施している企業は3.9%(前年比変動なし)となっています。
なお、65歳以上定年企業(定年制の廃止企業を含む)は32.6%(昨年比1.8%増)となっており、統計からは、少子高齢化による労働者の年齢構造の変化に対し、労働者が長く働ける雇用環境の整備に取り組んでいる企業が、昨年に引き続き微増していることがわかります。
経過措置終了に伴い、企業が取り組むべきポイント
高年齢者雇用確保措置の経過措置終了に向け、企業には次のような準備が求められます。
- 就業規則の改定
現在、労使協定に基づき継続雇用の対象者を限定している企業は、就業規則を見直し、希望者全員を対象に含める形に整備する必要があります。適切な改定を行うことで、労使トラブルを未然に防ぐことができます。
- 制度設計の最適化
定年を引き上げる、定年制を廃止する、または継続雇用制度を導入するなど、自社の経営状況や従業員構成に合わせた柔軟な制度設計が求められます。厚生労働省の統計からは、定年年齢を65歳以上とする企業が年々微増し令和6年時点で32.6%(昨年比1.8%増)であり、70歳まで働ける機会を確保する企業が31.9%(昨年比2.2 ポイント増)であることから、労働者が長く働ける雇用制度を設ける企業が増加傾向にあることなども参考に、自社に適した雇用環境は何であるかについて再検討することが重要です。
- 従業員への周知徹底
新しい制度や変更点について、従業員に正確かつ十分に説明することも大切です。不安や疑問を解消するための説明会や個別面談を実施すると、スムーズな移行が期待できます。
- 賃金の見直し
継続雇用制度の経過措置が終了し、60歳以上65歳未満の労働者は、希望すれば全員が継続雇用制度の対象者になるなど、高年齢者が働ける環境の整備が進んだことなどから、2025.4.1からの雇用保険法施行規則の改正により、高年齢雇用継続給付の給付率が低下することが決まっています。高年齢雇用継続給付の支給を見込んで高年齢者の雇用条件を決めている企業の場合は、高年齢雇用継続給付の縮小に伴い今後の雇用条件について見直す必要が生じることが考えられます。
おわりに
少子高齢化により若年層の労働者人口が減少傾向にあるなか、高年齢者雇用確保措置の経過措置終了は、企業にとって、人材を確保して事業活動を継続していくための重要な転換点です。当事務所では、社会保険労務士の専門知識を活かして、企業の皆さまを全力でサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。