はじめに
賞与は、従業員にとって支給の有無や金額への関心が高い賃金項目です。
一方で、年に数回しか支給されないことが多いため、会社にとっては判断や手続きで迷いやすい実務のひとつでもあります。
特に、健康保険・厚生年金では、賞与の支給回数や規程・支給条件によって、「賞与」ではなく「賞与に係る報酬」として扱われる場合があることに注意が必要です。たとえば、
- 年4回以上に分けて支払えば社会保険料はかからない
- 給与と一緒に明細を作れば賞与ではなくなる
といった理解は正確ではありません。
実際には、社会保険料がかからなくなるのではなく、
- 賞与として、支給ごとに標準賞与額をもとに保険料を計算するのか
- 毎月の報酬に組み込んで、標準報酬月額をもとに保険料を計算するのか
という取扱いの違いになります。
今回は、賞与と報酬の違い、賞与に社会保険料がかかる考え方、会社として確認しておきたいポイントを解説します。
どんなものが社会保険における「賞与」?
賞与に該当するものを支給した場合、原則として健康保険・厚生年金保険の対象になります。
日本年金機構は、賞与支払届の対象となる賞与について、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものと案内しています。 つまり、社会保険でいう「賞与」かどうかは、単に明細に「賞与」と書いてあるかどうかで決まるものではありません。
支給回数や支給実態、就業規則・賃金規程などの客観的な定めを踏まえて、「賞与」として扱うのか、賞与ではなく『賞与に係る報酬(毎月の給与)』として扱うのかが分かれます。
また、雇用保険についても、賃金には給料・手当・賞与など、名称を問わず労働の対償として支払うものが含まれるため、賞与を支給する場合は雇用保険料の取扱いも確認が必要です。
賞与にかかる社会保険料はいくら?
賞与に該当するものを支給した場合、健康保険・厚生年金保険では、実際に支払われた賞与額(税引前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とし、その標準賞与額に保険料率をかけて保険料を計算します。保険料は、事業主と被保険者で折半して負担することになります。
例えば、賞与総額が 398,500円 の場合、標準賞与額は、1,000円未満の500円を切り捨てた「398,000円」となります。会社と社会保険被保険者である従業員がそれぞれ負担する社会保険料については、標準賞与額に健康保険料率、厚生年金保険料率を乗じて得た額の半額ずつです。
なお、事業主は、賞与を支給した場合、原則として賞与支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を提出する必要があります。つまり、賞与に該当するなら、賞与としての保険料計算と届出が必要になる、ということです。
年4回以上支払われる場合はどうなる?
日本年金機構は、年4回以上支給されるものは標準報酬月額の対象になると案内しています。ただし、ここで大事なのは、単に「結果として4回以上払った」だけで機械的に決まるわけではない、という点です。
具体的には、年間を通じて4回以上支給される場合は、単に「結果として4回以上払った」だけでなく、賞与支給が就業規則や賃金規程で明確に年4回以上と定められているかなどを元に「賞与」か「賞与に係る報酬」かを判断する考え方が示されています。
そのため、年4回以上支給している場合には、
- どのような趣旨の支給か
- 年間を通じてどのような支給条件が定められているか
- 就業規則・賃金規程でどう位置づけられているか
- 支給実績がどうなっているか
といった点を踏まえて、「賞与」ではなく「賞与に係る報酬」として扱うかどうかを判断することになります。 つまり、
- 賞与に該当するものなら
→ 賞与支払届を提出し、標準賞与額で保険料計算 - 「賞与に係る報酬」と判断されるものなら
→ 賞与支払届は不要だが、毎月の報酬に組み込んで保険料計算
という違いです。
保険料がかからなくなるのではなく、かけ方が変わるという理解になります。 そのため、「年4回以上に分けて賞与を支給すれば社会保険料がかからない」という考え方は必ずしも正しいとは限りません。
給与明細で給与と合算しても、賞与に該当するなら取扱いは変わらない

「給与明細で給与と一緒に表示したから、これは賞与ではない」と考えるのも危険です。
社会保険の取扱いは、明細の見せ方だけで決まるわけではありません。
支給の趣旨、支給回数、規程上の位置づけ、実際の運用などを踏まえて判断されます。
そのため、給与明細を毎月給与と賞与を一体で記載して作っていても、実態として賞与に該当するなら、原則として賞与としての取扱いが必要になることになります。 このあたりは、
- 就業規則・賃金規程
- 給与明細
- 賃金台帳
- 実際の支給実態
が一致しているかを確認しておきたいところです。
例外的に、賞与の社会保険料がかからないケースもある
賞与に該当すれば原則として保険料対象ですが、例外もあります。
代表的なのが、産前産後休業や育児休業中の保険料免除です。
日本年金機構は、育児休業中の賞与保険料について、賞与を支払った月の末日を含んだ連続1か月超の育児休業等を取得した場合に免除対象となることを案内しています。
一方で、同じ「休み」でも、私傷病による休職中は扱いが異なります。
被保険者資格が続いている状態で賞与を支給した場合、その賞与は原則として保険料の対象です。「休職中だから全部かからない」とは限りません。
また、資格喪失月に支払われた賞与は、原則として社会保険料賦課の対象外とされています。
ただし、資格取得と同月に資格喪失があった場合などの例外もあるため、退職月の賞与は個別に確認したい論点です。
賞与の取扱いは、「休んでいるから」「退職するから」といった事情だけで一律に判断できないため、例外こそ丁寧に確認したいところです。
賞与支払届を忘れるとどうなるか
賞与に該当するのに賞与支払届を提出していない、あるいは年4回以上支給なのに毎月の報酬へ反映していない、という状態は、会社にとっても従業員にとっても見過ごしにくい問題です。
賞与は、その場の保険料計算だけに関係するものではありません。
届出漏れや判定誤りがあると、後になって保険料の追徴が必要になることがありますし、従業員にとっては、将来の老齢年金額や、傷病手当金・出産手当金の額などに影響する可能性もあります。
特に、
「年4回以上にしたから社保料はかからない」と誤解して、処理しているようなケースでは、会社の認識違いが、従業員の将来の給付や記録に影響するおそれがあります。
まとめ
賞与が支払われる会社では、次の点を確認しておくと安心です。
- その支給は年何回か
- 就業規則や賃金規程でどう位置づけているか
- 給与明細・賃金台帳・実際の支給実態が一致しているか
- 賞与支払届が必要か
- 「賞与に係る報酬」の扱いになるなら、毎月の報酬へ正しく反映しているか
- 産前産後休業・育児休業や退職月の例外を見落としていないか
賞与は、単発の支払いに見えても、給与計算、社会保険、就業規則・賃金規程・実際の運用まで広く関わる論点です。
「何となく毎年そうしているから」で処理している場合は、一度整理しておくと安心です。
賞与の取扱いは、支給回数だけでなく、就業規則・賃金規程での位置づけ、給与明細や賃金台帳の作り方、社会保険の届出まで関わります。
「毎年なんとなく同じ方法で処理している」「賞与か報酬かの判断が曖昧」「規程と実際の運用がずれているかもしれない」 という場合は、 給与計算の見直し や 就業規則や賃金規程などの見直し・再確認 を含めて、早めに整理しておくと安心です。