はじめに
最近は、福利厚生の一環として、住宅や食事の補助を取り入れる会社も増えています。物価高などの社会情勢の中、従業員の生活を少しでも支援したいという経営者の想いが見られますね。
ただ、こうした補助は「福利厚生」として行っていても、社会保険上は現物給与として報酬に含めて考えなければならないことがあります。なかでも、食事や住宅については、厚生労働大臣が定める価額に基づいて通貨換算し、一定の場合には社会保険でいう「報酬」として算定する取扱いです。 令和8年は、食事は4月から、住宅は10月から現物給与価額の改定があります。従来の処理のままでよいか、一度確認しておきたいところです。
現物給与とは
現物給与とは、通貨ではなく「食事」「住宅(社宅や寮など)の貸与」などの経済的利益で支給される給与のことです。日本年金機構では、食事、住宅、自社製品、通勤定期券などを例として挙げており、食事や住宅については厚生労働省が告示する金額に基づき金銭に換算し、食事・住宅以外は原則として時価で評価するものとされています。
ここで注意したいのは、福利厚生として食事や住宅を提供していても、自動的に社会保険上の対象外になるとは限らないという点です。
現物給与に当たるものがある場合は、その現物を通貨に換算し、金銭で支払う給与と合算したうえで、標準報酬月額の算定に反映させる必要があります。
令和8年の改定内容
厚生労働省の現物給与の価格についての告示等は、例年3月に、翌年度に適用する価格が発表されています。ただし、令和8年度は少し変則的な取り扱いになるため注意が必要です。令和8年度は、現物給与価額のうち、食事が4月1日から、住宅が10月1日から改定されます。
(1)食事について
社会保険では、社内食堂で従業員が安価に食事を利用できる場合や、弁当などを支給する場合も、一定の条件のもとで現物給与として報酬に算入されます。 食事の現物給与価額は、厚生労働大臣が都道府県ごと・年度ごとに定める価額をもとに金銭に換算して取り扱うものとされており、令和8年度については例年通り4月1日より価格が改定されています。下の図は、令和8年度において福岡県で適用される現粒給与の価格です。

※食事の現物給与価額は都道府県ごとに定められており、毎年同じとは限りません。必ず確認時点で最新の価額表を確認するようにしましょう。
(2)住宅について
住宅の現物給与価額は、令和8年10月1日から次のように見直されます。
- 単価が変更される
- 評価単位が、1畳当たりから総面積1㎡当たりに変わる
- 総面積には、居室だけでなく、廊下、台所、トイレ、浴室なども含まれる ※別棟の物置・車庫や共同使用部分は含まれません。
住宅については、令和8年10月から「どの部分を面積に含めるか」も変わるため、図で見比べると違いが分かりやすくなります。

社宅や寮などの住宅を従業員に貸与している場合、社会保険では、その住宅の利益を現物給与として評価し、報酬に算入する扱いがあります。
住宅の現物給与額は、実際の家賃相当額や会社が負担している金額をそのまま用いるのではなく、厚生労働大臣が都道府県ごと・年度ごとに定める現物給与価額をもとに計算し、実際に従業員がいくら負担するのかに応じて社会保険の報酬に合算するかが決まります。
従来、住宅については、住居スペースの広さに応じて、1畳(1畳=1.65㎡)あたりの価額を乗じて算出することとなっていましたが、令和8年10月以降、従来の1畳当たりではなく、総面積1㎡当たりで評価する扱いに変わります。
この場合の総面積には、従来は居住部分のみが含まれる取り扱いでしたが、改正により令和8年10月からは居住部分だけでなく、廊下、台所、トイレ、浴室なども含めた住宅の床面積の合計(総面積)が対象となります。 この変更は、単価が変わるだけではなく、面積の見方そのものが変わるため、従来の計算方法のまま処理しているとズレが生じやすい改定です。さらに、日本年金機構と厚労省の通知では、こうした改定は固定的賃金の変動として判断されています。
現物給与で起きやすいミス
実務では、次のような誤りが起きやすいため注意が必要です。
- 現物給与に当たるのに、そもそも報酬に含めていない
- 本人負担があるから対象外だと思っている
- どの都道府県の単価を使うかを間違える
- 4月や10月の改定後も、旧単価・旧基準のまま計算している
- 厚生労働大臣が定める現物給与価額の改定が、固定的賃金の変動に当たることを見落とし、月額変更届の要否を確認していない
- 社宅や食事提供の社内ルールが古い基準のままで、給与上の処理・社会保険上の評価方法が一致していない
特に注意しておきたいのは、福利厚生のつもりで始めた支給が、給与計算・社会保険の扱い・社内ルールのどこにも適切につながっていない状態です。この場合、後から修正が広がりやすくなります。
年金事務所調査でも確認されやすいこと
現物給与の取り扱いは、見落としやすい論点の一つです。会社としては、次の点を改めて把握し、外部にも説明ができる状態にしておきたいところです。
- どの支給・提供が現物給与に当たるのか
- その価額をどう計算したのか
- 本人負担額をどう扱っているのか
- 給与明細、賃金台帳、社会保険手続の内容が一致しているか
- 改定後に月額変更届の要否確認をしたか
現物給与は「あるか・ないか」だけでなく、いくらで評価し、どのように報酬へ反映したかまで見られるため、計算根拠や社内ルールが曖昧だと説明しにくくなります。
特に令和8年度は、食事・住宅ともに改定があるため、自社の処理が従来のままでよいか、早めに確認しておきたいところです。
今後へ向けて気を付けておきたいこと
現物給与は、福利厚生として取り入れやすい一方で、社会保険上の評価や月変確認まで含めると、意外に実務が複雑です。
特に令和8年は、食事と住宅で改定があり、住宅は評価単位そのものも変わります。従来どおりでよいと思い込まず、何が現物給与に当たるのか、いくらで評価するのか、月額変更届まで確認が必要かを整理しておくことが大切です。
現物給与に関する社内ルールや規程の見直しを進めたい場合は、 就業規則・規程整備ページ や 労務顧問ページ もあわせてご覧ください。