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銀行等への賃金支払い、見落としがちなポイントとは?

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銀行等への賃金支払い、見落としがちなポイントとは?

はじめに

労働基準法では、事業主が賃金を支払うに際して、原則として現金で労働者に直接支払うべきと定められています。しかし、現代社会の進化とともに銀行口座等への出入金による取引が一般的な手段となった事情を踏まえ、労働基準法施行規則や行政通達に変更が加えられ、これにより、事業主は一定の条件を満たす場合に限り、賃金を現金ではなく銀行口座等に振り込むことが認められるようになりました。しかし、この一定の条件というものが、実務上では見落としがちなポイントもあるため、漏れのないように重要な整備事項を再確認しておきましょう。

整備事項(1)労使協定の締結

労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、無い場合は労働者の過半数を代表する者との間で、下記事項を記載した書面または電磁的記録による協定を締結することが必要です(厚生労働省労働基準局長通達 令和4年11月28日基発1128第4号)。

  1. 口座振込み等の対象となる労働者の範囲
  2. 賃金の範囲および金額
  3. 取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲
  4. 実施開始時期

就業規則には、労使協定に基づいて従業員の同意を得た場合は、賃金を労働者の銀行口座などへ送金することを規定します。

整備事項(2)銀行・金融取引事業者の口座への支払についての労働者の同意

事業主は、労働者の同意を得た上で銀行口座への振り込みによる賃金の支払いを行うことができます(労働基準法施行規則第7条の2)。厚生労働省の通達では、労働者からの同意を得るべき事項として下記のものが定められています。労働者の入社時に、銀行振込先の支店名・口座番号のみ申告する様式を用いている場合は、追加で記載すべき事項などがないか確認しておきましょう。

同意を得るべき事項

  1. 口座振込み等を希望する賃金の範囲及びその金額
  2. 労働者が指定する金融機関店舗名、預金又は貯金の種類、口座番号、口座番号
  3. 開始希望時期

なお、労働者の同意は口頭ではなく書面またはメール等の電子的記録によって行うべきとされています(厚生労働省労働基準局長通達 令和4年11月28日基発1128第4号)。
つまり、賃金を銀行口座への送金により支払おうとする企業は、上記事項が記載された様式またはメール等の記録によって、あらかじめ労働者の同意を得ることが必要ということになります。

整備事項(2)電子マネーによる支払についての労働者の同意

事業主が電子マネーを用いて賃金を支払う場合には、①銀行や証券などの金融取引業者への口座振込を選択することができるようにすること、②口座残高が100万円を超えないようにする措置、または100万円を超えた場合に速やかに100万円以下に戻すための措置を講じること等の一定事項について説明したうえで、労働者からの同意を得なければならないことが定められています(労働基準法施行規則:第7条の2)。

電子マネーにより賃金支払いを行うためには、あらかじめ労働者から、下記事項を記載した書面またはメール等の電子的記録により同意を得ることが求められます(厚生労働省労働基準局長通達 令和4年11月28日基発1128第4号)。

同意を得るべき事項

  1. 口座振込を希望する賃金の範囲・金額
  2. 資金移動業者名
  3. 資金移動サービスの名称
  4. 資金移動業者口座の口座番号(アカウントID)および名義人
  5. 開始希望時期
  6. 代替口座として指定する銀行口座または証券総合口座の情報

整備事項(3)計算書の交付

事業主は、口座振込み等の対象となっている労働者に対して、所定の賃金支払日に、賃金の支払に関する下記事項を記載した計算書を交付することが求められます(厚生労働省労働基準局長通達 令和4年11月28日基発1128第4号)。

  1. 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
  2. 源泉徴収税額、労働者が負担すべき社会保険料額等の賃金から控除した金額(事項ごとに記載)
  3. 口座振込み等を行った金額

整備事項(4)その他

事業主が労働者の口座へ送金する場合には、上記整備事項(1)~(3)とあわせて、下記についても対応することが求められます(厚生労働省労働基準局長通達 令和4年11月28日基発1128第4号。

  1. 所定の賃金支払日の午前10時頃までに、払出しまたは払戻しが可能となっていること。
  2. 金融機関や指定資金移動業者は1行や1社に限定せず、複数の選択肢を設けること。
  3. 証券総合口座へ賃金を支払う場合は、その口座がMRF口座であることを確認すること。
  4. 電子マネーで賃金を支払う場合は、厚生労働省が公表する指定資金移動業者一覧を確認し、適切な口座を選択すること。

おわりに

時代の流れとともに、現金、銀行、電子マネーなど多様な支払い方法が普及しています。そのため、企業としては、労働基準法や労働基準法施行規則に適合した形で賃金支払いを行えているか、再度確認することをお勧めします。労働者の生活スタイルやニーズに合った適切な対応が、企業にとっても信頼の構築につながるでしょう。

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