はじめに
最近は、身の回りのことを生成AIに相談する方が増えていると報道で取り上げられるのを目にすることが多くなりました。生成AIに労務相談のようなことを聞いたり、法改正の内容をざっくり要約させたりする方もいるようです。
ただ、制度の概要を表面的に知ることと、それを実務でそのまま使えることは必ずしも同じではありません。
労務相談や給与計算の実務では、一般論だけでは足りない場面も少なくありません。
条文や通達を表面的に追うだけでは見えにくいのが、会社ごとの就業規則、賃金規程、勤怠ルール、これまでの運用、そして従業員との行き違いが起こりやすい地点です。
この記事では、生成AIで把握しやすいことと、そのままでは実務に使いにくいことを整理しながら、労務実務でAIを扱うときに何が前提になるのかを考えていきます。
AIが役立つ場面
AIは、法令や制度の概要をつかむには役立つこともあります。たとえば、
- 法改正の大まかな内容を知る
- 制度の全体像を整理する
- 関係しそうな論点を洗い出す
- 条文や通達を確認する入口を作る
といった場面では、情報収集の補助として使いやすい面もあります。
ただし、そこで整理される内容は一般論になりやすく、そのまま自社の実務に当てはめられるとは限りません。生成AIは、入力された事情を前提に回答を返すため、利用者が何をどこまで具体的に伝えたかによって、同じような相談でも回答が異なることがあります。
一般論では足りなくなるのはどんなときか
同じ法令がもとになっていても、会社ごとの就業規則、賃金規程、勤怠ルール、これまでの運用によって、取るべき対処が異なることがあります。
特に、任意対応が積み重なっている場合には注意が必要です。
本来はルールに沿って公平に扱うべき場面でも、実際には、
- ある人のときはこうだった
- これまでに「規則にない」あるいは「規則とは異なる取り扱い」をしてきた
- 職場の誰が見るかによって「うちのルール」が違って見えている
ということが起きている場合があります。
こうした状態で、生成AIの一般論をそのまま当てはめると、
- 「前と対応が違う」
- 「人によって扱いが違う」
- 「会社の説明に一貫性が見られない」
といった不信感につながりやすくなります。
本来、こうしたズレは、法令や自社の就業規則に沿った運用へ整理していくことが重要です。
ただ、現実には、過去の個別対応や任意対応の履歴が残っている会社も少なくありません。
そのため、AIの回答を実務に使うには、制度の一般論だけでなく、その会社のルールや過去の対応履歴も踏まえ、どこに労務の火種がありそうかを見ながら扱う視点が重要です。
AIを実務に活かすには何が必要か
では、AIがまったく使えないのかというと、そうとも言い切れません。
ただし、労務実務では、AIの回答をそのまま会社の対応に置き換えられるわけではありません。
重要なのは、AIを実務に使う前提として、何が必要かという点です。
- 人事・労務についての専門知識や対応経験があること
- 就業規則や賃金規程、勤怠規程などに定められたルールを十分把握できること
- その会社の過去の対応履歴を把握できること
- どこで従業員とのトラブルが起きやすいか想像できること
- AIの回答を、そのまま使わず確認・修正できること
こうした前提が必要です。
つまり、AIは「答えをそのまま出してくれるもの」というより、知識や経験のある人が補助的に使うと力を発揮しやすい道具と考える方が、実務には合っていると言えます。逆に、AIに質問を丸投げにして労務対応を進めると、一般論としては間違っていなかったとしても、自社の規則や運用、過去の対応とのズレなどの具体的な背景を見落としやすくなります。
その結果、従業員から見ると「人によって扱いが違う」「会社の説明に一貫性がない」という不信感につながりやすくなります。
さらに、不満が大きくなったときに、会社として「なぜ今回はこの対応なのか」を就業規則や運用の経緯に照らして客観的に説明しにくくなり、外部に対しても合理的な説明がつきにくい状態を招くことがあります。
まとめ
AIは、法令や制度の概要を知る入口として使われることがあります。
ただ、実務では、その会社の就業規則、勤怠ルール、過去の対応履歴まで踏まえて判断しなければならない場面が少なくありません。同じ法令がもとになっていても、実際の運用やこれまでの対応の積み重ねによって、会社ごとに注意すべき点が変わることがあるからです。
本来は、就業規則や社内ルールに沿って、客観的にも説明しやすい運用へ整えていくことが重要です。
もっとも、現実には、そこまで整理されていないまま運用されている会社も少なくありません。
労務に関する知識や実務経験が十分でなく、自社のルールや過去の対応履歴の把握も不十分なままAIを使うと、一般論としてはもっともらしい回答に引っ張られ、かえって自社に合わない対応につながることがあります。
そのため、AIの一般論をそのまま当てはめるのではなく、自社のルールや過去の対応とのズレを確認しながら、規則に沿った運用へ少しずつ寄せていく視点が必要です。
AIは相談しやすい相手に見えることもありますが、実務では、頼りすぎず、確認しながら使うことが大切です。
就業規則や社内ルールの見直しを進めたい場合は、就業規則作成・見直しページ を、日々の判断や運用まで含めて整えたい場合は、労務顧問ページ もあわせてご覧ください。