はじめに
採用活動というと、求人票の作成や応募者への対応、面接、採否の決定などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、採用が決まれば、労働条件の明示、社会保険・雇用保険の手続、勤怠管理、給与計算など、会社としての労務管理が始まります。
特に、新規開業や初めて従業員を採用する場合、これまでと異なる職種や雇用形態で採用する場合には、採用後の運用まで事前に整理しておくことが大切です。
この記事では、採用後に「もっと準備しておけばよかった」と後悔しないために、採用前に確認しておきたい労務管理のポイントを解説します。
採用活動は「求人募集と面接」だけではありません
採用活動は、応募者を集めて面接を行い、採用者を決めるまでの手続だけではありません。
募集を始める前には、仕事内容、雇用形態、勤務時間、休日、賃金など、実際にどのような条件で働いてもらうのかを整理しておく必要があります。
募集時には、業務内容や就業場所だけでなく、その変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準や更新上限などについても、該当する事項を明示しなければなりません。
ところが、求人票に勤務条件を記載していても、採用が決まり、入社準備を進める段階で、求人票と労働条件通知書の内容に食い違いがある、勤怠や給与計算の方法が決まっていない、必要な手続の準備ができていないといった不足に気づくことがあります。
募集時に条件を示すだけでなく、その内容を採用後の書類や実務へつなげ、実際に運用できる状態にしておくことが大切です。
採用後に始まる労務管理を見落とさないために

募集時の条件と、採用時の労働条件をつなげる
求人募集の段階では、応募者に対して、仕事内容、勤務時間、休日、賃金などの募集条件を示します。
採用が決まり、労働契約を締結する際には、会社は、賃金、労働時間その他の労働条件を労働者に明示しなければなりません。一定の重要事項については、原則として書面等による明示が必要です。
具体的には、契約期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金の計算・支払方法、退職に関する事項などを整理し、労働条件通知書等により明示します。求人票や面接で示した条件を変更する場合には、その内容を明確に説明し、最終的に適用する労働条件について会社と採用者の認識を合わせておく必要があります。
社会保険・雇用保険の加入要件と手続を確認する
採用する従業員について、事業所の適用関係や本人の雇用形態、所定労働時間、雇用見込みなどを踏まえ、社会保険・雇用保険の加入対象になるかを確認します。
加入対象となる場合には、入社日、報酬月額、被扶養者に関する届出の有無など、手続に必要な情報を確認し、期限内に資格取得手続を進める必要があります。 初めて従業員を採用する会社では、従業員本人の資格取得手続だけでなく、会社として必要になる事業所関係の手続も確認しておきます。
勤怠管理と給与計算の方法を決める
従業員が働き始める前に、始業・終業時刻をどのように記録するのか、遅刻・早退・欠勤をどのように扱うのか、時間外労働や休日労働をどのように申請・承認するのかを決めておく必要があります。 勤怠管理の方法が曖昧なままでは、労働時間を正しく把握できず、給与計算にも影響します。
給与についても、月給や時給の金額だけでなく、
- 基本給と手当の構成
- 給与の締日と支払日
- 遅刻、早退、欠勤時の控除方法
- 時間外・休日・深夜労働に対する手当
- 通勤手当
- 社会保険料や税の控除
- 固定残業代を設ける場合の金額、対象時間数、超過分の追加支給
などを整理しておく必要があります。
就業規則や社内ルールとの整合性を確認する
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が必要です。
10人未満の事業場であっても、勤務時間、休日、休暇、服務、遅刻・欠勤、休職、退職などを会社としてどのように取り扱うのかは、採用前に整理しておく必要があります。
また、既に就業規則がある会社でも、新しく採用する従業員の雇用形態や勤務条件が、現在の規定の適用対象になっているかを確認します。
例えば、これまで正社員だけだった会社が初めてパートタイマーを採用する場合には、勤務時間や休日だけでなく、賃金、休暇、服務、休職などについて、どの規定を適用するのかを整理しなければなりません。
採用活動の一部を外部へ依頼する場合
採用業務に十分な時間を割けない場合には、採用活動の一部を外部へ依頼することも考えられます。
例えば、
- 応募書類の受付や一覧化
- 会社があらかじめ決めた内容に沿った応募者への連絡
- 面接日程の調整
- 会社が決めた募集条件に基づく求人原稿の作成支援
など、採用活動に伴う事務的な後方支援です。
一方、外部事業者が自らの判断で候補者を選別する、面接や採否の判断に関与する、候補者を会社へ紹介して雇用成立に向けた調整を行うといった場合には、業務の内容によって職業紹介事業の許可等が必要になることがあります。
なお、外部事業者が会社に代わって労働者の募集を行う場合には、委託募集として許可や届出が必要になることがあります。
そのため、採用活動を外部へ依頼するときは、「採用代行」「面接代行」といったサービス名だけで判断するのではなく、
- 具体的にどの業務を依頼するのか
- 応募者へ労働条件を誰が説明するのか
- 選考や最終的な採否を誰が行うのか
- 依頼する業務に必要な許可・届出等を行っている事業者か
を確認しておくことが大切です。
採用業務の一部を外部へ依頼する場合でも、どのような条件で採用し、採用後の労務管理をどのように行うのかを決めるのは会社です。外部事業者との役割分担を明確にしたうえで、自社に必要な部分を依頼しましょう。
採用前に確認しておきたいポイント

採用活動を始める前に、次の点を確認してみましょう。
募集・労働条件
- 雇用形態、契約期間、試用期間を決めているか
- 仕事内容と就業場所、それぞれの変更の範囲を説明できるか
- 勤務時間、休憩、休日を決めているか
- 給与、手当、締日、支払日を決めているか
- 求人票と採用時の労働条件に食い違いがないか
入社準備と労務管理
- 労働条件通知書や雇用契約書を準備しているか
- 社会保険・雇用保険の加入要件を確認しているか
- 勤怠の記録方法と給与計算の方法を決めているか
- 就業規則や社内ルールが勤務条件に合っているか
- 入社時に説明・交付する書類や、提出してもらう書類を整理しているか
すべての制度を大掛かりに整えなければ採用できない、ということではありません。
ただし、少なくとも、採用する人に適用する労働条件と、入社後に会社が行う労務管理については、採用前に説明できる状態にしておくことが大切です。
採用する前に、入社後の運用まで整理しておく

採用前に確認したいのは、労働条件を決めているかどうかだけではありません。求人票や面接で示した条件を、労働条件通知書、就業規則や社内ルール、勤怠管理、給与計算などの実務へ一貫して反映できるようにしておく必要があります。
それぞれの内容に食い違いがあれば、入社後に改めて説明や設定の見直しが必要になり、従業員との認識のずれにつながることもあります。
特に、新規開業や初めて従業員を採用する場合には、設備や許認可、求人募集などの準備が優先され、就業規則や社内ルール、労働条件通知書などの整備が後回しになりがちです。
予定している雇用形態や勤務体制に合わせて必要なルールや書類を整え、その内容を勤怠管理、給与計算、社会保険・雇用保険の手続へつなげられるよう、採用前から準備しておきましょう。
これは新規開業に限りません。これまでと異なる職種や雇用形態の人を採用するときや、久しぶりに採用活動を行う場合にも、現在の規程や労務管理の方法を確認する機会になります。
採用活動は、採用する人を決めることだけではありません。採用した人が円滑に働き始められるよう、入社後の労務管理まで見据えて準備することが、採用後の行き違いや対応のやり直しを防ぐことにつながります。
採用時に整えた労働条件や社内ルールを、その後の勤怠管理、給与計算、社会保険等の実務につなげ、継続的に労務管理を確認したい場合は、労務顧問サービスのページもあわせてご覧ください。