はじめに
近年、育児・介護休業法に定められた育児と仕事の両立支援制度は広がっており、産休や育児休業だけでなく、子の看護等休暇、短時間勤務、残業免除、深夜業の制限、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に向けた「柔軟な働き方を実現するための措置」など、企業として見ておくべき制度も増えています。
制度が広がること自体は前向きな流れです。
ただその一方で、会社の実務では、
- 何がいつ使えるのか
- 自社ではどこまで整えているのか
- 法令上の最低基準と会社独自の上乗せ措置がどう違うのか
- 復職後にどのような働き方の選択肢を示せるのか
が、十分に整理されていないままになっていることも少なくありません。
従業員から妊娠・出産の申出があり、産休・育休までの流れは思ったよりも時間がないものです。制度の説明や復職後の働き方の見通しが後手になると、本人にとっても会社にとっても、後で混乱しやすくなります。 この記事では、子どもが生まれる前から復職後までの主な育児制度を簡潔に整理したうえで、会社ごとに違いが出やすい点、近年の法改正で誤解が起きやすい点、そして「対象者が出てから対応」で進めると何が起こりやすいのかを考えていきます。
子どもが生まれる前から復職後までの主な育児制度

育児に関する制度は、妊娠・出産の申出から復職後まで、時期ごとにいくつか用意されています。投稿日現在における育児・介護休業法上の主な制度を大まかに整理すると、次のようになります。
- 産前産後休業
- 出生時育児休業(産後パパ育休)
- 育児休業
- 子の看護等休暇
- 所定外労働の制限
- 時間外労働・深夜業の制限
- 短時間勤務制度
- 柔軟な働き方を実現するための措置 など
制度名を見れば分かったように感じても、実際には「何がいつ使えるのか」は分かりにくいことがあります。まずは全体像を見える形にしておくことが大切です。
育児制度は、会社ごとに違う部分がある
育児・介護休業法は、企業が最低限整えておかなければならない基準を定めたものです。したがって、法令の下限を満たす制度はどの会社にも必要ですが、その具体的な定め方や、法を上回る独自措置の有無は会社ごとに異なります。
たとえば、子の看護等休暇を取得した日の賃金が有給か無給か、短時間勤務制度に6時間以外の選択肢も設けられているかなどは、会社の規程によって違います。
他方で、労使協定を締結して、育児に関する制度を利用できる従業員に条件を設けることも育児介護休業法で認められているため、世間一般的に言われている制度がそのまま利用できるとも限らないということが言えます。
そのため、従業員にとっては、「育児制度があるらしい」ではなく、「自分が勤める会社では何が、いつ、どう使えるのか」が分かることが重要です。
会社にとっても、何が最低基準なのか、上乗せ措置があるのか、復職後の選択肢として何を示せるのかが整理されていないと、案内や面談のたびに説明がぶれやすくなります。
近年の法改正で加わった制度は、誤解も起きやすい
近年の改正の中でも、実務上とくに誤解が起きやすいのが、柔軟な働き方を実現するための措置です(令和7年10月施行)。
この制度では、会社は厚生労働省が示す複数の選択肢の中から2つ以上の措置を選んで講じ、対象労働者はその中から1つを選択して利用することになります。選択肢には、始業時刻等の変更、テレワーク等、養育両立支援休暇、短時間勤務制度などが含まれています。
ここで問題になりやすいのが、「2つ選んで規程に入れれば足りる」 と考え、会社の都合だけで制度を決めてしまうことです。厚生労働省は、事業主が講ずる措置を選択する際には、過半数労働組合等から意見聴取の機会を設ける必要があるとしています。
たとえば、業務の実態として利用しにくい措置を形だけ採り入れても、対象者にとっては働き続けるための制度として機能しにくいことが考えられます。法令が会社に求めているのは、単に制度を置くことではなく、労働者が育児と仕事を両立しながら働いていくために、職場で本当に利用価値のある制度を選び、それを使える形で設計していくことです。
そのため、法令に沿った実効性のある制度とするためには、制度選定の段階で、過半数労働組合等からの意見聴取を行うとともに、必要に応じて社内アンケートなども活用し、職場の実情や実際に利用しやすいかといった点を踏まえて設計していくことが考えられます。
「対象者が出てきたら対応」で進めると起きやすいこと
対象者が出てきたらそのとき考えればよい、という姿勢で進めると、実務ではかなり慌ただしくなります。妊娠・出産の申出があった時点で、休業前の引継ぎ、休業中の手続、復職時期の見込みなど、確認すべきことは一気に増えます。その中で、休業中・復職後に利用できる制度まで十分に整理して伝えられないまま、産休や育休に入ってしまうことがあります。
本人にとっては、復職後にどのような働き方の選択肢があるのかが見えないままでは、育児と仕事をどう両立するかの見通しを立てにくくなります。「思っていたものと違う」「そんな制度があるなら早く知りたかった」という行き違いは、制度そのものがないから起きるというより、見通しを示す準備が不十分なまま進んだときに起こりやすいものです。
ここで見落としたくないのが、継続就業率の視点です。厚生労働省資料では、第1子出産前に有職だった妻の出産後継続就業率は上昇傾向にあり、2015~19年では77.4%とされています。つまり、出産後も働き続けることが、本人にとっても会社にとっても、より現実的な前提になっているということです。
人手不足が続き、求人を出しても採用に結びつきにくい会社にとっては、なおさら見逃せない論点です。復職後の働き方の道すじが見えるか見えないかは、本人の継続就業の判断にも影響しますし、会社側にとっても、人員配置や業務設計をどう考えるかに関わってきます。
そのため、少なくとも次の点は事前に整理しておきたいところです。
- 法令上、自社が講じなければならない措置は何か
- それが就業規則や育児・介護休業規程の中でどのように定められているか
- 妊娠・出産の申出時や一定時期に、何をどう説明するのか
- 復職後にどのような働き方の選択肢があり得るのか
こうした整理ができていると、本人にとっても会社にとっても、復職後の見通しを立てやすくなります。
まとめ
育児制度は、産前産後休業、育児休業、子の看護等休暇、短時間勤務制度、残業免除、そして柔軟な働き方を実現するための措置など、時期ごとに見ておくべき制度が多くあります。
その一方で、制度名だけを知っていても、自社で何がどのように使えるのかまで整理できていないと、実際の利用や案内の場面で混乱しやすくなります。
とくに、近年の法改正で加わった制度については、規程に反映しただけで十分とはいえません。
だからこそ、会社としては、法令上求められている内容を押さえるだけでなく、自社で本当に使える制度として設計できているかまで確認しておきたいところです。
また、対象者が出てから慌てて調べるのではなく、あらかじめ制度の全体像、自社独自の上乗せ措置の有無、申出があったときに何を説明するのかまで整理しておくことが、復職後の混乱を防ぐうえでも重要です。
制度の整備は、規程を改定して終わりではなく、実際にどう案内し、どう運用していくかまで含めて考えておきたいテーマです。
自社の制度が法改正にきちんと対応できているか、また、制度設計や説明体制に少しでも不安がある場合は、対象者が出てから慌てないためにも、早めに整理しておくことをおすすめします。
就業規則や育児・介護休業規程の見直しを進めたい場合は、就業規則作成・見直しページを、
制度の運用や個別対応まで含めて整えていきたい場合は、労務顧問ページもあわせてご覧ください。