はじめに

「年齢を重ねれば自然に給与が上がる」――。
そんな賃金カーブの常識が、いま静かに変わりつつあります。
若手層の賃金上昇と全世代の賃金設定について、ここで少し考えてみましょう。
賃金カーブとは、年齢や勤続年数とともに賃金がどのように変化するかを示すグラフのことです。一般的に、20代から40代半ばにかけて賃金は上昇し、その後は緩やかになり、50代以降は減少する傾向があるとされてきました。
しかし近年では、バブル崩壊以降の経済状況の変化などを背景に、年齢や勤続年数に着目して賃金を設定する企業は減少傾向にあります。
実際、1976年・1995年・2023年に実施された厚生労働省「賃金構造基本統計調査」のデータによれば、20〜24歳の平均所定内賃金を基準(100)とした場合、年齢が上がるごとの賃金の上昇幅(=賃金カーブの傾斜)が年々緩やかになってきていることがわかります。


※出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より。青色のラインが2023年における賃金カーブです。左図は「年齢階級による賃金カーブ」を示し、右図は「勤続年数による賃金カーブ」を示しています。
賃金カーブの変化が示す、組織づくりの新たな視点

他方で、近年は若年人口の減少に伴い、若手人材の採用競争が激化しており、新卒初任給の引上げも相次いでいます。
人事院の調査によれば、2024年時点の大卒初任給は22.0万円と、10年前(19.5万円)から2.5万円(+約13%)上昇しており、初任給を引き上げた企業は全体の約8割に達しています。なかには、月給30万円を超える企業も登場しており、今後も若手層の賃金水準が大きく上昇していくことが予想されます。このような変化が続く中、経営側・働く側の双方に、下記のような懸念が高まっています。
- 年齢や勤続年数に比重を置いた賃金設定では、スキルや成果が正当に評価されない
- それにより、社員のモチベーションや働き方に悪影響が出る
これからの賃金制度には、「納得感」や「成果・スキルの反映」という視点がますます求められていくでしょう。
これまで多くの日本企業では、年齢や勤続年数に応じてスキルが向上し、それに伴い賃金が上昇する仕組みが一般的でした。しかし、新卒採用者をはじめとする若年層の賃金上昇、一方で賃金カーブが緩やかになっている現状のもとで、全世代的に見ると賃金がスキルや成果と評価が賃金に反映されにくい状況になってしまうと、下記のような組織全体の活力低下を招くリスクも指摘されています。
‟最低限の仕事しかしない‟ “後輩育成に消極的になる” ”不満から不機嫌な態度を取る”
賃金制度における「納得感」を高めることは、働く意欲や組織の活性化に直結します。例えば、個人評価を賞与に反映する業務の幅や質に応じて小さな昇給を検討するといった工夫でも、従業員の意欲向上につながります。
「職務給」という考え方

近年注目されている「職務給」とは、年齢や勤続年数ではなく、仕事内容(職務内容)や求められるスキルに応じて賃金を設定する仕組みです。これにより、成果やスキルアップが賃金に正しく反映される公平な処遇によってモチベーションが向上するといったメリットが期待されます。
+ 職務給とは? ※クリックすると開きます
担当する職務の内容や求められる能力に応じて、賃金水準を設定する仕組み」のことをいいます。 具体的には、下記のような要素をもとに、それぞれの仕事に対して給与水準を決めます。
- 業務の種類
- 業務の難易度
- 求められる知識やスキルのレベル
- 仕事に伴う責任の大きさ
▼▼ イメージ図(あくまで例です) ▼▼
| 職務名 | 職務内容 | 難易度・責任度 | 賃金水準(例) |
|---|---|---|---|
| 営業(新規開拓あり) | 新規顧客開拓・提案営業 | 高 | 月給30万円 |
| 営業(既存顧客対応) | ルート営業、既存取引先フォロー | 中 | 月給27万円 |
| 一般事務 | 書類作成・データ入力 | 低 | 月給25万円 |
| 経理・財務担当 | 決算業務・財務管理 | 中 | 月給26万円 |
小規模企業でできる「職務給」導入の第一歩
職務給をいきなり本格導入するのは難しいかもしれませんが、まずは次のような取り組みから始めることが可能です。
職務の棚卸し
「誰が、どんな業務を担当しているか」を簡単に整理します。厚生労働省の「ジョブタグ」を活用すれば、自社の職務をイメージしやすくなります。
担当業務ごとの役割・期待水準を整理
担当業務ごとに、期待される役割やスキルを明確にします。これが賃金設定や評価の土台になります。
できるところから賃金・評価に反映
たとえば、新しい業務に挑戦した社員への賞与加点職務拡大に応じた基本給の微調整など、小さなステップでも大きな効果が期待できます。
実際に取り組んでいる企業の声

厚生労働省がまとめた導入企業のアンケートによると、「職務や役割に応じた公正な評価ができるようになった」「社員のスキルアップ意欲が高まった」「業務分担が明確になり、マネジメントしやすくなった」といった効果を感じている企業が多くあります。
一方で、「職務の整理・見直しに時間がかかった」「一部社員から不安の声も出た」といった課題も報告されています。そのため、導入は焦らず、段階的に進めることが重要です。
おわりに
賃金制度の見直しは、会社の未来づくりにもつながる大切なテーマです。まずは「現状を整理してみる」ことからスタートしてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、職務整理のお手伝いや、制度整備に向けたご相談も承っています。ご関心がある方は、ぜひお気軽にお声かけください。
お気軽にお問合せ下さい