はじめに
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者やパートなどのいわゆる非正規型の雇用で働く労働者の処遇や雇用状況の改善を目的として、厚生労働省が実施している雇用関係助成金のうちのひとつです。このキャリアアップ助成金は、2023.11.29から要件が緩和されたことで、より多くの労働者が対象になり、企業が助成金制度を利用できる機会が広がりました。派遣社員の直接雇用を検討している企業にとっても、この助成金は貴重な支援手段となり得ます。
キャリアアップ助成金【正社員化コース】
キャリアアップ助成金は、雇用改善の取組みごとに複数のコースが用意されています。キャリアアップ助成金【正社員化コース】は、非正規型の雇用で働く労働者を、正社員(多様な正社員含む)に転換することによって雇用を安定させる事業主に対して助成されるものであり、派遣先企業が派遣社員を正社員(多様な正社員含む)として直接雇用する場合にも対象となります。
助成額は80万円(中小企業の場合、1人あたりの助成額、1期・2期申請の合計)であり(※)、新たに設けた正社員転換制度に従って正社員化する場合などに適用される助成額加算措置があります。
※パート勤務者などの無期雇用労働者や、雇用契約が通算5年を超えた労働者を正社員化する場合の助成額は半額
派遣社員の直接雇用と助成金
助成金には、対象となる企業の要件や、労働者の要件など様々な要件が定められています。例えば、対象労働者の要件のひとつに『一定期間以上にわたり正社員と異なる雇用区分の就業規則が適用されている有期雇用労働者や無期雇用労働者であること』という要件があります。この場合の『一定期間』は、以前は『6ヶ月以上3年以内』でしたが、2023.11.29からの要件緩和により、以降は『6ヶ月以上』に変更され、正社員転換する場合の雇用期間上限がなくなりました。しかし、正社員化する対象労働者が派遣社員である場合は、いわゆる派遣法の3年ルールなどの派遣法に定められたルールを遵守している場合のみ、助成対象である点に留意する必要があります。
派遣法の3年ルールとは
派遣法には、長期間にわたる派遣就業により派遣社員が不安定な雇用状態のもとで働くことを防ぐ目的で、派遣可能期間の上限を設けられています。同じ事業所や同じ部署で、同じ派遣労働者が勤務できる期間の上限は3年までと定められており、これを派遣法の3年ルールといいます。この上限の対象となるのは、有期雇用の派遣社員であり、下記の5つのケースに該当する派遣社員は期間制限の対象外です。
- 派遣元で無期雇用契約を結んでいる派遣社員
- 60歳以上の派遣社員
- 有期プロジェクトに従事する派遣労働者
- 日数が限定されている業務(1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ 10 日以下であるもの)に従事する派遣社員
- 出産・育児・介護等で休業する労働者の代替として従事する派遣社員
2種類の雇用期間制限
派遣法の3年ルールには「事業所単位の期間制限」と「個人単位の期間制限」という2つの考え方があります。
(1)事業所単位の期間制限
同一の事業所で、派遣社員を受け入れることができるのは3年までという制限です。「同一の事業所」とは、基本的に雇用保険の適用単位と同じであり、工場・事務所・店舗などの単位を指します。同一の事業所単位での派遣期間制限が切れた翌日を、派遣可能期間の抵触日といいますが、この「抵触日」は延長することが可能です。この場合は、派遣先企業が、派遣先の労働組合(組合がない場合は過半数代表者)から意見を聴取する手続きにより、派遣社員の受入期間をあと3年延長することができます。
(2)個人単位の期間制限
同じ組織単位に、同じ派遣社員を派遣できるのは3年までという制限です。組織単位とは、「課」や「グループ」が想定されていますが、指揮命令者が同じかどうかなども考慮し、実態に即して判断されます。
上記(1)の「事業所単位の期間制限」を延長したとしても、個人単位の期間制限の考え方により、同じ派遣労働者を同一の組織単位で3年を超えて働かせることはできません。たとえば、総務課で3年に渡り派遣就業した人は、それ以上同じ総務課に派遣されて働くことはできません。ただし、3年にわたり総務課で派遣就業した後に、営業課で1年派遣就業するなどのように「組織単位」が変われば、同一の派遣社員が同じ事業所で就業することは可能です。
派遣元企業には、派遣法の3年ルールの対象である派遣労働者が、同一の組織で継続勤務3年を超える見込みが生じた場合に、派遣社員の意向を聞いたうえで、雇用の安定化に向けた措置を取ることが義務として課せられています。措置内容の例として、派遣先企業に直接雇用してもらえるよう依頼すること(派遣先企業には承諾・拒否を選択)などの方法があります。
なお、派遣法の3年ルールは、派遣社員が安定した雇用を求める機会を確保するために定められた規制であり、違反した場合には「30万円以下の罰金」(労働者派遣法第61条第3号)や、労働局からの行政指導を受ける可能性があります。
おわりに
キャリアアップ助成金は、派遣社員を正社員(多様な正社員含む)として直接雇用しようと検討している派遣先企業にとって、大きな支援となります。しかし、助成金を活用するためには、派遣法を含む労働関係諸法令と助成金の支給要領の理解・把握と、順守が不可欠です。
派遣法というと、派遣会社が把握しておくべき規定と思われている方も多いようですが、派遣先企業についても様々な義務が定められています。有能な人材の獲得に際して、助成金の活用を検討する際、自社の労務管理が適正に行うことができているかを再点検することをおすすめします。
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<参考リンク>
当事務所掲載ページ:キャリアアップ助成金【正社員化コース】対象労働者・助成額の拡充