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【実態と定めのズレが引き起こすトラブル】変形労働時間制の正しい理解と適用

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【実態と定めのズレが引き起こすトラブル】変形労働時間制の正しい理解と適用

はじめに

多くの企業が、36協定の有効期間を4月1日から始まる1年間としています。時間外や休日労働に関して労働者の過半数代表と協定し、36協定を労働基準監督署へ届け出ることで、法定の労働時間を超える時間外労働、法定休日における労働が法的に許可されます。例年、年度末を前にした2月から3月にかけては、次年度の36協定を準備する企業が増えます。変形労働時間制を導入している企業では、同時期に変形労働時間制についても労使で協議することが多いため、今回の記事では近年の裁判例を踏まえて、変形労働時間制を適用する場合のご留意事項について記載いたします。

変形労働時間制とは

労働基準法では労働時間は1日8時間、1週40時間までと定められていますが、「変形労働時間制」を適用することによって、業務の繁忙期や閑散期にあわせて柔軟に労働日や労働時間を設定できるようになります。

具体的には、一定の期間を平均して1日8時間・1週40時間以内の所定労働時間となる範囲で、繁忙期には労働時間を1日8時間以上に設定し、他方で閑散期は労働時間を短く設定することができるようになります。このように、変形労働時間制は、効率的な働き方を実現して労働時間の短縮を図ることを目的としており、労働基準法では4種類の変形労働時間(1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制、フレックスタイム制)が認められていますが、適用するためには法定の要件を満たして正しく運用する必要があります。

変形労働時間制と時間外労働・割増賃金

変形労働時間制を適用していない場合、1日8時間・1週40時間を超えた時間は時間外労働として扱われ、割増賃金が発生します。その一方で、業務が少なく早上がりできるような状態の労働日であっても一定の給与を支払う必要があります。

しかし、変形労働時間制を適用している場合は、閑散期は労働時間を短く設定し、その分を繁忙期に充てて労働時間を長くすることで時間外労働や割増賃金が発生しにくくなります。変形労働時間制は、1ヶ月や1年などの一定期間の中で労働時間を分散して設定することで、効率の良い働き方を可能にする仕組みであるといえます。

変形労働時間制の導入手続【1ヵ月単位・1年単位】

変形労働時間制のうち、より多くの企業で運用されている1ヶ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制を適用する場合には、就業規則や労使協定で一定事項を定め、定めたとおりに運用することが必要です。就業規則や労使協定に定める事項は、次のとおりです。

(1)1ヵ月単位の変形労働時間制の導入手続

1ヵ月単位の変形労働時間制を適用するためには、下記の事項について就業規則に定めるか、または、従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結して、労働基準監督署に届け出ることが必要です。

  • 対象者の範囲
  • 変形期間
  • 変形期間の起算日
  • 変形期間を平均して、1週間の法定労働時間を超えない定め
  • 変形期間における各日・各週の労働時間(始業・終業時刻)
  • 有効期間(労使協定の場合)
(2)1年単位の変形労働時間制の導入手続

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、下記の事項について就業規則に定めるとともに、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。

  • 対象となる従業員の範囲
  • 対象期間
  • 対象期間の起算日
  • 対象期間における労働日・労働日における労働時間
  • 特定期間
  • 労使協定の有効期間

変形労働時間制を適用する際の注意点

労使協定には、適用される勤務パターンを詳細に記載することが必要です。労働日と労働日ごとの労働時間を明確に定めて、労働者がいつ、どれだけ働くのかを明確にする必要があります。この点で、変形労働時間制の適用が否定された事例(※:日本マクドナルド事件・名古屋地裁令和4年10月26日)があります。

変形労働時間制の適用が否定されてしまうと、上記のような弾力的な労働時間の運用が認められないこととなり、企業が想定していたよりも多くの時間外労働が発生し、時間外労働に対する割増賃金の未払いが発生することになってしまいます。

1ヶ月単位の変形労働時間制の適用にあたり、必要な手続きが適切に行われていませんでした。全店舗で共通の就業規則が適用されており、勤務時間について原則的な勤務シフトとして4つのパターンの始業・終業時刻が定められていましたが、ある店舗での勤務は就業規則で示されたのとは異なる店舗独自の勤務シフトによって勤務割が作成されていました。労働基準監督署からは、勤務パターンの全てを労使協定や就業規則に記載しきれていないことと、実際に働いた時間に対する割増賃金が適切に支払われていなかったと指摘されており、判決においても就業規則に定めた勤務時間と店舗での実際の勤務パターンが一致していない点が問題視され、変形労働時間制の適用が否定されました。

労務管理の重要性と年度末のチェックポイント

変形労働時間制は、労働時間を適切に管理・運用できるようであれば事業の繁閑に応じた効率の良い働き方を可能にしますが、適用するための要件として労働基準法に定められている事項を的確に把握し、日常の労務管理に反映することが欠かせません。上記の事件は、変形労働時間制を適用する際の適正な管理が行われなかった結果、法的な問題に発展した事例として注目されています。

年度末に36協定を更新する際、特に変形労働時間制を適用している企業の皆さまには、労働時間制度の適正な運用を再確認する良い機会となります。変形労働時間制の確実に管理・運用のためにも、企業の皆さまには、労使協定や就業規則に定めている労働時間と実態とが合致しているかを再確認し手続を進めることをおすすめいたします。

おわりに

変形労働時間制の適正な運用は、専門的な知識と経験を要します。当事務所は、企業と労働者双方の利益を守り、働きやすい職場環境の構築をお手伝いすることを目指しており、労使協定の作成支援や就業規則の見直し、36協定の提出サポートなど、企業の皆さまが直面する様々な課題に対して専門的なアドバイスを提供いたします。お気軽にお問合せ下さい。

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