はじめに
先日、令和6年3月分(4月納付分)から適用される協会けんぽの健康保険(介護保険含む)保険料率が発表されました。昨年に引き続き賃上げを予定している多くの企業にとって、この変更はただ単に3月分以降の保険料を把握するためだけのものではなく、より深い意味を持つものといえます。
賃上げは、労働者のモチベーションや生活水準の向上に貢献しますが、同時に社会保険料の算定基礎となる報酬額に反映され、結果として企業の福利厚生費や労働者の手取り賃金にも影響を及ぼします。
そのため、保険料の対象となる報酬の範囲を改めて正確に把握することは『単なるコスト把握』を超えて、今後の待遇の改善方向性を検討するうえで非常に重要です。
健康保険・介護保険料の計算式
社会保険料(月額)の決まり方
標準報酬月額 × 社会保険料率 = 社会保険料(月額)
※上記「社会保険料(月額)」を労使で折半して納付
社会保険料は、「標準報酬月額」に保険料率を乗じて算出します。健康保険の標準報酬月額は、労働者が会社から受け取る毎月の賃金を50段階の等級に分けて定められています。
たとえば、令和6年度の保険料率が11.95%(介護保険料を含む場合)であれば、報酬月額が30万円の従業員の場合、1ヶ月の定期賃金に対する健康保険料は「標準報酬月額30万円 × 0.1195 = 35,850円」となり、これを事業主と労働者で折半することになります。
報酬月額の対象となる報酬の範囲
報酬月額の算定基礎となる「報酬」は、次のいずれかを満たすものです。
- 被保険者が自己の労働の対価として受けるもの
- 事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計にあてられるもの(※)
標準報酬月額の基礎となる報酬には、賃金・給料・手当など、労働の対価として支払われる金銭だけではなく、現物で提供されるものも含まれます。通勤定期券や食事提供、社宅のように、金銭で支給されないものについても、現物給与として所定の方法により金銭に換算し報酬に加えられます。
(※)就業規則等に基づいて、経常的(定期的)に支払われる場合など。『支給事由の発生、支給条件、支給額等が不確定で、経常的に受けるものではないもの』は通常の生計に充てられるものとは言えないため報酬に含まれません。
対象となる報酬
①金銭(通貨)で支給されるもの
- 基本給(月給、日給、時間給、歩合給、など)
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 役職手当
- 残業手当
- 休日手当
- 継続支給する見舞金
- その他の手当 年4回以上支給の賞与、決算手当など
②現物で支給されるもの
- 通勤のための定期券や回数券
- 食事、食券
- 社宅、寮など
対象とならない報酬
- 慶弔金(結婚や出産祝いなど)
- 見舞金
- 公的保険給付(傷病手当や休業補償給付など)
- 退職金、解雇予告手当
- 出張旅費、交際費
- 年3回以下支給の※賞与、決算手当など
- 制服、作業着 社宅・寮や食事・食券で労働者の負担額が一定額以上の場合
おわりに
保険料の変更は、労働者の手取り給与や企業の経理処理にも影響を与えます。社会保険料の対象になる賃金・ならない賃金を把握し、短期的・長期的な人件費・福利厚生費の見通しについて、今後の人材確保などの広い視野から判断することがポイントといえます。賃金と社会保険料を適切に把握し将来にわたって調整することは、企業の成長と従業員の満足度を高めるために不可欠です。賃金や社会保険のルールは複雑であり、賃上げや社会保険の制度に関する不明点やお悩みが生じた際は、当事務所が丁寧にサポートいたしますのでお気軽にお問合せ下さい。