はじめに
改正育児・介護休業法が2024年5月24日の参議院本会議で可決・成立し、育児介護休業2025年4月1日より順次改正施行されることとなりました。本記事では、改正内容に含まれている看護休暇と介護休暇を中心に法改正の概要を解説します。
看護休暇・介護休暇とは
育児介護休業法には、仕事と子の養育や家族介護を両立するための制度が定められています。育児休業や介護休業のほかにも、残業や深夜時間帯の労働を制限できる制度、子の病気時の世話や予防接種を受けさせるための看護休暇、そして家族介護が必要なときに利用できる介護休暇などがあります。看護休暇や介護休暇は、時間単位での利用が可能であり、始業から終業まで、もしくは労働時間の途中から終業まで取得することができる制度です。
育児介護休業法に定められた看護休暇・介護休暇の付与日数
看護休暇は取得の対象となる子1名につき1年度に5日(2人以上の場合は10日)、介護休暇は要介護状態の対象家族1名につき1年度に5日(2人以上の場合は10日)付与されます。
この場合の『年度』とは、企業が特に時期を定めていない場合は、毎年4月1日から翌年3月 31 日までを指しますが、事業所の事情にあわせて『1月1日~12 月 31 日を一年度とする」などの定めをすることも可能です。
なお、看護休暇および介護休暇は、当年度に使いきれなかった休暇を、翌年度に持ち越すことはできません。付与された年度に限り使用することができます。
育児介護休業法改正による育児休暇・介護休暇の変更内容
(1)看護休暇から看護等休暇へ変更|小学校3年生修了まで(2025.4.1~)
投稿日時点で施行されている育児介護休業法では、看護休暇の利用目的は「病気・けがをした子の看護のため に、又は子に予防接種や健康診断を受けさせるための休暇」と定められていましたが、施行日以降(2025.4.1以降)は「学校保健安全法第 19 条の規定による出席停止(感染症またはその疑いがあり又はかかるおそれのある児童生徒等がの出席停止)」「学級閉鎖」、教育若しくは保育に係る行事のうち厚生労働省令で定めるものとして「入園、卒園又は入学の式典その他これに準ずる式典」の場合の利用が可能となります。このように、看護休暇の利用目的が拡張されることにともない、その看護休暇が「看護等休暇」に名称変更となります。
(2)看護休暇の対象となる子どもの要件変更(2025.4.1~)
投稿日時点で施行されている育児介護休業法では、看護休暇を利用できる労働者は「小学校就学前の子ども」を養育する労働者と定められているのが、施行日以降(2025.4.1~)は「小学3年生までの子ども」を養育する労働者へ変更となります。
(3)利用可能な労働者の要件緩和
投稿日時点の育児介護休業法では、企業と事業所の労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結することによって、看護休暇および介護休暇を取得できる労働者を限定することも認められています。労使協定で看護休暇・介護休暇を利用できる労働者から除外することが認められているのは『入社 6 か月未満の従業員』と『1週間の所定労働日数が 2 日以下の従業員』の労働者であり、このことが定められた労使協定が締結・周知されている事業所では、これらの労働者は育児休暇・介護休暇の制度を利用できないこととなります。
しかし、2025年4月1日施行の改正育児介護休業法により『入社 6 か月未満の従業員』については労使協定による対象除外とすることが認められなくなり、小学校3年生修了までの子を養育する労働者であれば勤続期間の長さにかかわらず、看護休暇・介護休暇の制度を利用可能となります。
(4)その他の改正事項
育児介護休業法の改正により、上記のほかにも制度の内容が変更され、または新設されるものがあります。その概要と、それぞれの施行日は、次のとおりです。
- 所定外労働免除の対象範囲拡大|3歳以上小学校就学前の子も対象に(2025.4.1~)
改正前: 3歳未満の子を持つ労働者のみが所定外労働の制限(残業免除)の対象。
改正後: 小学校就学前までの子を持つ労働者が対象に拡大。
- 育児のためのテレワーク導入の努力義務|3歳未満の子を育てる労働者(2025.4.1~)
法改正により2025年4月1日からは、3歳未満の子を養育する労働者にテレワークの措置を講ずることが事業主の努力義務となります。テレワークの措置を講じなくても罰則等はありませんが、事業主においては積極的に当該措置を講じ、労働者の仕事と育児の両立を助けることが期待されます。
- 仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化|妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前(2025.10.1~)
労働者が妊娠・出産等の申出をした場合、育児休業に関する制度等について個別周知することや育児休業取得の意向確認をすることは、既に義務付けられていますが、それとは別に、労働者から勤務時間帯・勤務地にかかる配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直しなど育児期の働き方に関する意向を確認し、その意向に配慮することが事業主に義務付けられます。事業主が意向を確認する時期は、労働者からの妊娠・出産等の申出があった際や3歳になるまでの適切な時期に行うべきとされています。
- 働き方の柔軟化措置および個別の周知・意向確認義務|3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者(2025.10.1~)
改正により、事業主には、3歳以上~小学校就学前の子を養育する労働者に関して、職場のニーズを把握した上で柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が利用できるようにすること義務が生じます。具体的には、過半数組合等からの意見聴取の機会を経たうえで、事業主が柔軟な働き方の措置を講じることになります。柔軟な働き方として、事業主は、始業時刻等の変更、1ヶ月に10日以上のテレワーク、保育施設の設置運営、1年に10日の新たな休暇付与、短時間勤務制度のなかから2つ以上を選択して措置を講じることとなり、労働者はそのうち1つを利用して働くことができるようになります。
なお、事業主は、労働者がこの措置をスムーズに選択できるように、3歳に満たない子を養育する労働者に対して措置の内容を個別に周知し、措置の利用意向を確認しなければなりません。個別の周知と意向確認は、面談等により行うこととなりますが、妊娠・出産等の申出時や、育児休業からの復職時などの適切な時期に行うべきとされています。
これから企業が取るべき対応
法改正に伴い、企業は労使協定の見直しや就業規則の更新が必要になります。
制度利用の対象者や、企業が整備すべき措置を把握し、漏れなく対応することが必要です。特に、新たな制度内容と利用にあたってのルールを明確にし、従業員への周知徹底することが求められます。
従業員に対する情報の提供と、自社の状況に合う最適な働き方のルールを整備し、適切に制度を運用していくことが、従業員の満足度とリテンションが向上するためキーポイントとなるでしょう。
従業員の働き方の制度整備や、一人ひとりがやりがいを持って働ける職場づくりをしたいとお考えの企業さまは、当事務所までお気軽にお問合せ下さい。