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労務管理の電子化における重要ポイント

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労務管理の電子化における重要ポイント

はじめに

企業が労働者について行政機関に届出・報告する手続きは、従業員の入社・退職のときだけでなく毎年必ず行うものまで広範囲にわたります。これらの諸手続きについて、政府全体で行政手続コスト削減へ向けた電子申請の利用促進が図られており、過去には、令和2年4月から特定の法人(※)における労働・社会保険手続の一部について電子申請が義務化されました。

令和7年1月からは、労働安全衛生関係の一部につき、企業規模を問わず電子申請による手続きを行うことが義務となります。

※特定の法人とは
資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に
納付する拠出金の額が1億円を超える法人
相互会社(保険業法)
投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
特定目的会社(資産の流動化に関する法律)

令和7年1月より義務化される労働安全衛生関係の手続

労働安全衛生法をはじめとする法令では、事業所で発生した災害や労働者の健康状態などについて、事業主が報告する事項等を定めています。令和7年1月からは、事業所が下記の労働安全衛生にかかる報告を行うときは、電子申請により届け出なければなりません。

  • 労働者死傷病報告
  • 総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
  • 定期健康診断結果報告
  • 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
  • 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
  • 有機溶剤等健康診断結果報告 じん肺健康管理実施状況報告

厚生労働省:労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます

義務化される『電子申請』とは

電子申請とは、現在紙によって行われている申請や届出などの行政手続を、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。電子申請は『e-Gov電子申請システム』というデジタル庁が運営するサイトを通じて行うことができるようになります。

e-Gov電子申請:TOPページ

e-Gov電子申請システムをはじめて利用する企業は、利用開始にあたってアプリケーションのインストールやアカウントの取得が必要です。届け出を行わなければならなくなったときに、スムーズに行えるよう事前に環境設定を済ませておくことが重要です。

その他の労務管理の電子化における重要ポイント

企業内の労務管理書類を電子化する動きが増えていますが、その場合には労務管理の各分野を取り締まる法令に従って適切に行うことが重要です。例えば、従来から従業員に紙で交付していた労働条件明示書や給与明細書を電子化する場合には、下記の事項に留意する必要があります。

事業主が、労働者の雇入れや契約更新などに伴い行う労働条件は、原則として書面で明示することとされていますが、平成31年4月から電子メール等を用いて行うことが可能となりました(労働基準法規則第5条第4項)。ただし、以下の点に留意する必要があります。

  • 労働者が希望した場合に限られる

厚生労働省が発表した『改正労働基準法に関するQ&A』によると、労働者が口頭で希望する旨を伝達した場合も「希望した場合」に含むと解されています。労働者が希望していないにもかかわらず、 電子メール等のみで明示したりすることは、労働基準関係法令の違反となりますので十分に留意する必要があります。

  • 『電子メール等』とは

・パソコン・携帯電話端末による E メール、Yahoo!メールや Gmail といったウェブメールサービス
・メッセージ等の RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス)
・ LINE や Facebook 等の SNS メッセージ機能

  • 出⼒して書面を印刷などできるものに限られる

労働者がプリンターを保有しており電子メール等で受信した内容を出力できるかどうか等の個人的な事情によらず、一般的に出力が可能な状態であれば良いとされています。

  • 受信されたことの確認

労働者の通信端末機器に受信した内容が到達していなくても、メールサーバー等に到達していれば、電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識し得る状態にあると判断され、使用者が労働条件を明示したと認められます。ただし、web メールサービスや SNS 等には上記のような特性もあるため、労働条件を電子メール等の送信により明示したときには、労働者に確認の連絡を入れるなどの対応をあわせて行うことが推奨されます。

給与明細の発行について、所得税法に定めがあります。あらかじめ労働者の承諾を得ることで、給与明細に記載すべき事項を電磁的方法により提供(電子交付)することができることとされています。具体的には、以下の事項について労働者の承諾を得ることが考えられます。

  • 電子交付する書類の名称
  • 電磁的方法の種類やその具体的な方法(Eメール、社内LANの選択など)
  • 受信者ファイルへの記録方法
  • 交付予定日
  • 交付開始日

ただし、あらかじめ労働者から電子交付の承諾を得ていても、後に書面で交付するよう求められた場合は書面で交付しなければなりません。

おわりに

企業が行う行政機関への届出・報告等の電子化や、社内で労働者に対する交付書類を電子化することを検討する際には、各法令に細かな根拠規定があることを踏まえ、適切に運用できるようにしておく必要があります。労務管理の効率化にあたりご不明な点などがありましたら、当事務所までお気軽にお問合せ下さい。

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