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年次有給休暇の管理をもっとラクに

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年次有給休暇の管理をもっとラクに

年次有給休暇は、入社日から勤続6か月経過時点で、所定勤務日の8割以上を出勤した労働者に対して付与されます(労基法第39条)。労働者にとっては取得理由を問わずに私用目的で利用できる制度であるものの、企業にとっては煩雑な年休管理に手間をとってしまうというお悩みをよくお聞きします。今回の記事では、年次有給休暇の管理をより簡単に行うための方法をご紹介いたします。

年次有給休暇についての法令の決まりごと


 労働基準法では、年次有給休暇について次のように定められています。

入社後6ヶ月経過時に、直近6ヶ月間の全労働日の8割以上出勤した労働者に、10日間付与(初回)。
初回付与日から1年後に、直近1年間の全労働日の8割以上出勤した労働者に、新たに年次有給休暇を付与。

例えば、6月1日に入社したフルタイム労働者に付与する年次有給休暇(初回)は、6月1日から11月30日までの半年間の出勤率が8割以上であれば、12月1日に10日分付与されることになります。そして、次回以降は、11月30日までの直近1年間の出勤率が8割以上であれば、新たに年次有給休暇が付与されます。

付与される日数は、フルタイム勤務者と、パートタイムなどの所定労働日数が少ない勤務者で異なります(下図)。

< フルタイム勤務者の付与日数 >

厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」より


< パートタイムなどの所定労働日数が少ない勤務者 >

厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」より

年次有給休暇の管理が煩雑になっているのは、なぜ?

(1)付与のタイミングが人によって違う

労働基準法の規定によると、年次有給休暇の付与日は、労働者ごとの入社日によって定まります。そのため、企業は、各労働者の入社日に応じて年次有給休暇の付与日を把握し、漏れなく付与することが求められます。一般的な企業では、給与計算をするときに有給休暇の取得日数と残日数を確認する作業が行われます。従業員一人ひとりの付与日を把握し勤続年数に応じて有給休暇日数を付与する作業ですので、従業員数が多い企業(または労務担当1名のみの企業)だと業務が煩雑になりミスが生じやすくなります。

(2)従業員からの問合せ対応

年次有給休暇は、従業員から企業への問合せで多いもののうちの一つ。「いつ有給休暇が付与されますか」「今月有給休暇が付与されるが、現時点の残日数とあわせると合計で何日取得できますか」といった問合せがよくあります。このような問い合わせがまばらに発生すると、労務担当は他の業務の手を止めて都度、出勤率や在籍年数に応じた日数を調べて返答する業務が発生します。

(3)年5日の有給休暇を消化できているか個人ごとに確認しなければならない

労働基準法の改正により、全ての企業は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に、付与日から1年以内に、少なくとも5日間の年次有給休暇を使用させることが義務になりました。従業員ごとに年次有給休暇の利用状況を確認し「いつまでに、あと何日消化する必要があるか」を把握する業務が必須となりますが、付与日が従業員の入社日によって異なることで年次有給休暇の管理が複雑になります。

付与日を統一して管理をより効率的に

「付与日が従業員ごとに異なるタイミングで到来することで年次有給休暇の管理業務が複雑化している」という企業のお悩みへの対応として、全従業員の年次有給休暇の付与日を統一する方法があります(年次有給休暇の斉一的取扱い)

年次有給休暇の斉一的取扱い

厚生労働省通達(平成6年1月4日基発第一号:労働基準法の一部改正の施行について 5(3) で認められている制度。
この制度を利用すると「年次有給休暇」の「付与日」を統一することができ、年休管理がしやすくなる

適法な運用のために注意すること働基準法で定める最低基準を下回らない」

労働基準法に定められている事項は、労働者を雇用するにあたり順守しなければならない最低基準ですので、これを下回ることはできません。例えば、一斉付与日を6月1日とする企業に、10月1日付で入社した従業員に対し、一斉付与日に合わせて翌年の6月1日に有休を付与する運用は認められません。労働基準法には「初回付与日は入社半年後」との規定があり、10月1日入社の従業員の年休付与日(基準日)を4月1日よりも後に設定することは、法令で定める最低基準を下回ることになってしまうからです。そのため、基準日と6ヶ月経過時と比べてどちらか早い日に有給休暇を付与することになります。

ただし、上の図のような運用だと、付与日までの期間や付与日数に差が出てしまい、従業員間で不公平感が生じる可能性があります。より公平な運用とするためには、付与の方法に工夫が必要です。

より公平に年次有給休暇を付与するために

「入社日に一定日数の有給休暇を与える」が、従業員の入社タイミングに応じた付与日数を設定することで、不公平が生じないようにバランスをとる方法があります。

上の図は、一斉付与日を6月1日に設定している企業の初年度と、次年度の付与日数を入社のタイミングに応じて示しています。12月~5月入社の社員に対しては、労働基準法では6月まで有休を付与しなくても違法にはなりませんが、公平性を保つために段階的に有休を付与する方法をとっています。

  • 6/1に入社した従業員には入社日に10日間付与し、12ヶ月後に2回目の付与日が到来。
  • 2/1に入社した従業員には入社日に 3日間付与し、 4ヶ月後に2回目の付与日が到来。

このような方法で、次回の有給休暇が付与されるまでの期間と、付与日数のバランスをとると、年次有給休暇制度の不公平感を緩和でき、従業員の納得性を向上させることができます。

上の図の例では、6月~11月に入社した従業員に入社時に10日間付与する設定ですが、これとは別に、6月~11月に入社した従業員に対して入社時に5日付与し、半年経過時に更に5日、そして一斉付与日に11日付与、以降1年ごとに在籍年数に応じて年次有給休暇を付与するパターンを取ることもできます。

上の図では、年次有給休暇の管理を簡易にするために、2回目以降の付与日を6月1日にしていますが、付与日を年に複数回設けることも可能です。

運用面の留意点

年次有給休暇の斉一的取扱いは、法律ではなく、厚生労働省通達(法律の解釈)で認められているものです。この通達では、企業が年次有給休暇の斉一的取扱いによって一斉に有給休暇を付与するルールを設けて運用する場合に、守らなければならない事項が示されています。

(1)年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定

斉一的付与を導入した最初の年や、入社後半年間経過していない従業員には、付与日を「前倒し」して年次有給休暇を付与する必要があり、この前倒しした期間は全て出勤したものとみなして年次有給休暇の付与要件である出勤率8割以上を満たすか判定しなければなりません。

(2)年次有給休暇の一斉付与日から1年以内に、新たな年次有給休暇の付与日を設定する

前倒しした付与日から1年以内に、次年度の年次有給休暇を付与する必要があります。一度設けた付与日は、その翌年度以降も、同様に繰り上げる必要があります。

まとめ

労働者が年次有給休暇を取得しやすくする法整備が進んでいますが、その一方で企業の労務管理は煩雑化しているとのお声を耳にします。年次有給休暇の管理をより簡易に行いやすくする視点と、従業員の納得性向上の視点から記事を投稿しました。企業の皆様が、運用ルールの工夫によって自社の最適な労務管理が可能になりましたら嬉しく思います。

そして、年次有給休暇の運用ルールを定めたら、就業規則を労働基準監督署へ変更届を提出することが必要(常時使用する従業員数10名以上の場合)ですので、漏れなく対応しましょう。

  • この記事を書いた人
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エスマイル社会保険労務士事務所 社会保険労務士 三浦 敬子

福岡・北九州を拠点に社会保険労務士として、労使双方が共に満足できる職場づくりをサポートしています。企業が理想とする職場を実現するために、新しい時代に対応する支援メニューを提供いたします。

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