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MS法人の労務管理で気をつけたいこと

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MS法人の労務管理で気をつけたいこと

医療機関の事業運営効率化や節税などのメリットを期待しうる手段として、MS法人(MS:メディカルサービス)を設立するということが広く知られています。医療機関の運営には、診療行為以外に、医薬品・器具等の購入・在庫の管理、保険請求、受付対応、会計などの様々な業務がありますが、このうち診療行為以外の業務の一部を分離して他組織(MS法人)に委託することで(外注して委託料を支払い)、診療に専念できるようになると言われています。ただし、業務を委託する場合には、派遣法に関連して労務管理面で留意すべき点があります。

業務委託と労働者派遣

医療機関からMS法人に委託される業務の例として、受付・医療事務の業務があります。MS法人が受託した受付・医療事務の業務は、MS法人の役員や労働者が行うようになります。従来、医療機関との雇用契約により受付・医療事務の業務を行っていた労働者は、就業場所・業務の内容は変わらないけれども、MS法人の労働者になったことで、以降はそれまで所属していた医療機関からではなくMS法人からの指揮命令に従って業務を行うことが求められるようになります。

このことと、少し似た労働の形態として、労働者派遣があります。労働者派遣は、派遣元企業から派遣先企業に労働者を派遣して、派遣先企業の業務指示に従って派遣労働者に業務を行わせる形態です。労働者派遣の場合は、派遣先企業から労働者に対して業務の指揮命令を行うことができますが、業務委託(MS法人)の場合には業務の注文主が指揮命令を行うことができません。

請負(業務委託)

労働者派遣

厚労省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」より

業務委託によって「自社から業務を別企業へ委託する」場合と、「派遣先企業として派遣労働者を受け入れる」場合の大きな違いは、労働者に対する指揮命令関係の有無です。医療機関がMS法人に業務を委託する場合には、MS法人の労働者に対する業務指示を行ってしまうと偽装請負となる可能性もありますので注意が必要です。

派遣と請負との区分基準

派遣と請負の具体的な区分の基準は、平成 24 年厚生労働省告示第 518 号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に定められています。

この基準によると、注文主と請負業者の間で請負契約が交わされていたとしても、請負業者が「自己の雇用する労働者を自ら直接利用していない」または「受注した業務を請負業者自身の業務として注文主から独立して処理していない」と判断されると、もはや請負ではなく、労働者派遣事業により労働者を派遣して業務に従事させたと判断されます。このように、請負契約の形式であっても、実態として請負事業者の労働者を注文者の指揮命令のもとで働かせることを偽装請負といいます。

請負と派遣事業のどちらに該当するかについては、労働局が諸々の実態を勘案して総合的に判断します。医療機関が、医療事務業務をMS法人に委託する場合などに、偽装請負に該当してしまわないように特に気をつけたい事項の一例に、下記の事項が挙げられます。

MS法人の留意事項(一例)

  • MS法人の労働者が、医療機関の管理者や職員から、その都度業務の遂行方法に関する指示を受けることがないよう、受託する全ての業務の内容・量・業務を行う手順・就業日・就業時間・就業場所などの業務に関する事項や、トラブル発生時の対応方法、その他の連絡体制などについて、MS法人と医療機関との間で書面を作成して定めておき、MS法人からMS法人の労働者に直接指揮命令する
  • 始業終業の時刻・休憩時間・休日・休暇等に関する指示や管理をMS法人が自ら行う
  • 勤務場所での規律・服装・勤務態度等の管理は、MS法人自ら行うこと(衛生管理上等の合理的理由がある場合を除く)
  • 医療機関から受託した業務処理によって、医療機関や第三者に損害を与えた場合の責任関係について定めること

偽装請負と判断されると

罰則の適用可能性

偽装請負と判断された場合、「労働者派遣法」「職業安定法」「労働基準法」のいずれか又は複数の違反になり、罰則が科されることもありますので(労働者派遣法第5条第1項に反するとき:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)、雇用関係と指揮命令関係を適切に保つように日々管理することが重要です。

「労働契約申し込みのみなし制度」の適用

派遣先企業が派遣労働者に対してその時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の条件で労働契約の申込みをしたものとみなされます。派遣先等が労働契約の申込みをしたものとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者がこの申込みに対して承諾する旨の意思表示をすることにより、派遣労働者と派遣先等との間の労働契約が成立します。仮に、MS法人の労働者が、労働契約申し込みのみなし制度により医療法人の労働者になることを承諾した場合には、注文主である医療機関がMS法人へ業務を委託することによって期待した税制や業務運営上のメリットが薄らぐことも考えられます。

厚生労働省:派遣労働者、労働者派遣事業・請負事業に携わる皆さまへ 労働契約申込みみなし制度の概要

MS法人が派遣業許可を取得した場合は?

派遣業の許可を得るためには、施設や資産その他の要件を満たすことが必要ですので容易ではありませんが、MS法人が労働者派遣事業の許可を得て、医療機関に対して受付・医療事務等の医療業務以外に従事する労働者を派遣することは可能です。労働者派遣では、派遣先企業が派遣労働者に対して業務の指揮命令を行うことができますので、医療機関が受付・医療事務等の従事者に直接指揮命令を行いたい場合には、派遣許可を取得することも考えられます。

ただし、派遣先企業は自社を退職した後1年以内の者を派遣労働者として受け入れてはならない(派遣法第40条の9第1項)との定めがありますので、派遣業の許可をMS法人が取得したとしても、それまで医療機関に雇用されていた受付・医療事務等を行う労働者を、派遣労働者として受け入れることができません。

厚生労働省:離職後1年以内の労働者派遣の禁止について

また、派遣業を行うにあたっては、派遣先企業と派遣元企業の間で取り交す契約内容等や派遣労働者との雇用契約などが派遣法の基準を満たすことの他にも、教育訓練や派遣元管理台帳の作成記録など諸々の管理事項があります。派遣業を行うにあたって必要となる事項を十分に把握して適法に業務を行う必要があります。

まとめ

今回の記事では、MS法人と医療機関の業務関係を例に、派遣と業務請負について記載しました。医療機関に限らず様々な業種で、偽装請負に該当するとは知らずに労働者派遣を請負としている場合もあるのではないでしょうか。請負と労働者派遣の違いを十分に把握し、うっかり無許可で労働者派遣をしてしまわないように気を付けましょう。

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エスマイル社会保険労務士事務所 社会保険労務士 三浦 敬子

福岡・北九州を拠点に社会保険労務士として、労使双方が共に満足できる職場づくりをサポートしています。企業が理想とする職場を実現するために、新しい時代に対応する支援メニューを提供いたします。

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