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副業・兼業労働者の労務管理【労働時間上限・休日】

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副業・兼業労働者の労務管理【労働時間上限・休日】

副業・兼業のトレンド

現代は人生100年時代であり、副業・兼業を通して複数の収入源を築くことに興味を示す労働者は増加傾向にあります。令和6年10月からスタートする社会保険の適用拡大により、被保険者数51人以上企業に勤めるパートタイマーの方は週所定労働時間20時間以上・所定内賃金の月額8万8千円以上などの要件を満たす場合、勤務先の健康保険・厚生年金に加入することになります。今後、勤務先での労働時間を短縮して社会保険の適用要件を満たさない条件で勤務し、他社で副業・兼業を行うことで手取り収入を確保しようと考えるパートタイマーの方が増える可能性も考えられます。

そこで、今回の記事では、複数の事業所で雇用されて働く労働者について適用される労働時間のルールについてご説明します。

そもそも労働者の副業・本業は認めないといけない?

『副業・兼業は会社の規則で禁止されています』との声をよく耳にします。副業・兼業は原則として禁止で、企業の許可を受けることで例外的に行うことができると認識している方も多くいらっしゃるようです。

しかし、副業・兼業について厚生労働省がまとめた副業・兼業に関するガイドライン(令和2年9月・令和4年7月)にも記載されているとおり、過去の裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由であると解されています。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいますので、始業前や終業後の過ごし方について企業が制限することは原則としてできません。ただし、労働者は、使用者との労働契約に基づく義務を有していることもあり、次のような一定の事情に該当する場合には、副業・兼業を含めた労働時間以外の利用に規制を受けることになります。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

なお、『労務提供上の支障がある場合』には、後述の時間外労働の上限規制に抵触するなどして過重労働になる恐れがあるため労働者の健康が損なわれないように配慮する必要がある場合も含まれます。

副業・兼業を行う労働者の法定労働時間

法定労働時間とは、1日8時間・週40時間を原則とする労働時間の上限であり、使用者は原則としてこの上限を超えて労働させることはできません(労働基準法32条1項・2項)。

法定労働時間は、過重労働により労働者の健康が害されることを予防するために設けられているものであり、副業・兼業者が行う本業先と副業・兼業先での労働時間についても適用されます。労働基準法の行政解釈では、事業場が異なっていても労働時間は合算するものとされており、そして、この『異なる事業場』には、1企業内の複数事業場(他支店、他店舗など)はもちろん、事業主が異なる場合も含まれます。そのため、本業先と副業・兼業先の複数事業所で雇用されて働く労働者についても、本業と副業・兼業の両方の労働時間を通算して集計し、原則として1日8時間・週40時間を超えて労働させることができないということになります。

副業・兼業労働者の時間外労働上限

副業・兼業により労働する労働者に限らず、使用者は、原則として法定労働時間を超えて労働者を労働させることはできません。ただし、企業内の労働者の過半数で組織する労働組合や労働者の過半数代表者と話し合い、時間外労働・休日労働に関する協定( 36協定)を締結し、あらかじめ労働基準監督署長に届け出ることによって、労使協定に定める時間数の範囲で、法定労働時間を超えて働かせることはできます。

時間外労働の上限は『1ヶ月45時間・年360時間まで』と労働基準法に定められています。この上限は、あくまで臨時的な事情がある場合に限定して『年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)、1ヶ月45時間を超えは年間6回まで』の範囲で延長することが可能と定められており(これを特別条項といいます)、36協定にはこれらの上限の範囲内の時間数を定めることを要します。

副業・兼業により複数の使用者のもとで働く労働者についても、36協定の定めにより時間外労働を行わせることが可能です。ただし、各社の時間外労働が通算されるのは『複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)』以内の範囲であることを判定する場合であり、『1ヶ月45時間・年360時間まで』や特別条項を設ける場合の『年720時間以内、1ヶ月45時間を超えは年間6回まで』の範囲であるかについては各社を通算せずに判定します(各社ごとに判定)。

休憩時間、法定休日、有給休暇は?

  • 1日の休憩時間(労働基準法第34条)

使用者は、労働者の労働時間が1日の労働時間が6時間を超える場合は少くとも45分、8時間を超える場合に少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。この場合の労働時間には、本業先と副業・兼業先の労働時間を通算しません。例えば、本業先で5時間労働、副業・兼業先で3時間労働であれば両社での労働時間合計は8時間ですが、休憩時間数を与えるか否かについては通算せずに判定しますので、両社とも休憩時間を与える必要がないことになります。

  • 法定休日(労働基準法第35条)

使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。この場合の「1日」や「4日」の休日が確保できているかは、本業先と副業・兼業先で個別に判定します。例えば、本業先で週6日勤務し、副業先で週1日勤務する場合は、労働者から見ると1週間のうちに休日が全く無いことになりますが、本業先は法令に従い週1日の法定休日を与えていることになります。

  • 年次有給休暇(労働基準法第39条)

使用者は、労働者に対して、全労働日の8割以上を出勤していることを条件として、下図のように勤続年数や所定労働日数に応じて法令に定められた日数分の年次有給休暇を付与しなければなりません。この場合の勤続年数や所定労働日数には、本業先と副業・兼業先で個別に判定します。一般の労働者(週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者)であれば初年度は10日分の年次有給休暇が付与されますが、例えば本業企業で週所定3日、副業・兼業先企業で週所定2日である場合、労働者から見ると週5日働いていることにはなりますが、年次有給休暇については本業企業と副業・兼業先企業の所定労働日数を通算せず、各社の所定労働日数に応じて付与されることになります。

厚生労働省『次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』より

おわりに

企業の皆さまが労働者から副業・兼業をしたいと相談されたときに備え、法定労働時間と時間外労働の上限規制や、副業・兼業を制限する事情がないかなどの重要な情報を把握し、法令に則った対応をすることができるように準備しておくことが重要です。

企業の皆さまは、労働者が副業・兼業を始める前に、仕事内容や労働時間の長さなどについて詳しく聴取する必要があります。労働者が副業・兼業を始めようとする場合にはあらかじめ会社に対してその内容や労働条件を相談すること等を徹底してもらうことがポイントになります。そのため、自社の事業活動や労働者の健康を損ねるような場合や、法令で定められた労働時間を順守するために一定の規制をかける可能性があることなどを規則で定めておくことが極めて重要です。職場の秩序を維持するために、労働者に自社のルールを順守して働いてもらうための枠組みを築いて、多様化する労働者の働き方のニーズに対応する基礎を作られてはいかがでしょうか。

働き方の制度整備や、労働時間や給与計算などの人事労務管理に関するご疑問や、今後の働かせ方について検討するにあたり労務専門のアドバイスがほしいとお考えの場合は、エスマイル社会保険労務士事務所が丁寧にサポートいたしますのでお気軽にお問合せ下さい。

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過去記事:キャリアアップ助成金【社会保険適用時処遇改善コース】

<注>
フレックスタイム制や変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制などの特別な労働時間制が適用されている場合の労働時間通算については、本記事に記載している通算方法とは別の特別な考え方に基づいて判断する部分があります。

  • この記事を書いた人
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エスマイル社会保険労務士事務所 社会保険労務士 三浦 敬子

福岡・北九州を拠点に社会保険労務士として、労使双方が共に満足できる職場づくりをサポートしています。企業が理想とする職場を実現するために、新しい時代に対応する支援メニューを提供いたします。

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