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統計からみる昇給の舞台裏

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統計からみる昇給の舞台裏

厚生労働省から【令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】という賃金に関する統計が発表されています(2023.11.28発表)。経済情勢の変化や企業の競争激化に伴い、賃金の改定や昇給の問題はますます複雑化しています。厚生労働省の統計によれば、企業が昇給を決定することについて、その動向を掴むことができます。今回は、統計データのポイントをご紹介いたします。

令和5年中における賃金の改定の実施状況(9~12月予定を含む)

・1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業の割合: 89.1%(前年85.7%)

・1人平均賃金の改定額:9,437円(前年5,534円)、1人平均賃金の改定率は3.2%

昇給の種類とその傾向(9~12月予定を含む)

定期昇給の実施状況

定期昇給制度がある企業(※)で定期昇給が行われた割合
・理職::71.8%(前年 64.5%)
・一般職::79.5%(前年74.1%)
※管理職の定期昇給制度が「ある」:77.7%、一般職の定期昇給制度が「ある」:83.4%

ベースアップの実施状況

・管理職:ベアを行った・行う企業: 43.4%(都度比 +18.8%)
・一般職:ベアを行った・行う企業 :49.5%(都度比 +19.6%)

賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素

・企業の業績:36.0%
・労働力の確保・確保:16.1%
・雇用の維持:11.6%

経済状況や企業経営を見極めると、短期業績向上だけでなく、労働力の確保や雇用の維持といった人材戦略が賃金引き上げの観点に影響を与えていることが注目されます。

定期昇給とベースアップ

定期昇給

企業が定めた一定の期間ごとに行われる昇給機会のことです。
「昇給機会」であるため、可能性として業績不振などの事情により行われないこともあります。
企業は年次昇給として1年ごとに行う場合や、年2回行う企業が一般的ですが、具体的なスケジュールは企業によって異なります。
個々の労働者の社歴や能力、成果などを考慮して昇給額を決定するため、昇給額には個人差があり、傾向として勤続年数が長くなるほど昇給額が高くなる傾向があります。
従業員にとっては、一定期間ごとに昇給が期待できること、企業にとっては、給与が一定の期間で上昇することが予測できるため将来的な人件費を把握しやすくなるメリットがあります。
他方で、実績によらず昇給が行われる場合、企業にとっては予算との調整困難に陥ることが考えられます。
実績によらず、勤続年数等ををもとに定期昇給が行われると、従業員のモチベーションに影響を与え不満に思われることが考えられます。

ベースアップ

従業員全体の給与水準を一斉に引き上げることです。ベースアップは、一般的に、従業員の基本給を増額することを言います。厚生労働省が発表した【令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】によると、1人平均賃金の改定率は3.2%ですので、基本給が20万円の場合は、6,400円増額され、20万6,400円となります。
ベースアップでは、賃金規程に定めている賃金表の金額をアップさせるなどして従業員全体の給与を上昇させます。物価高騰などの世間の潮流にあわせて従業員の給与を一律で上昇させることができる一方、企業にとっては、一度上昇させた基本給は簡単に引き下げることは難しく、将来も継続して賃金水準を維持することになります。

「成果・業績給」「役割・職責給」等のウェイトを高め、「年功・勤続給」を見直す傾向

厚生労働省の発表資料【令和5年版労働経済の分析-持続的な賃上げに向けて-】によると、多くの企業において、賃金を決定する際の要素として、年齢・勤続の占める割合を減らしていく意向であることがわかります。

厚生労働省【令和5年版労働経済の分析-持続的な賃上げに向けて-】第2-(3)-5図  役職別の現在の処遇制度と今後の見通し より

同資料では、賃金決定に「職務内容」を重視する企業では、比較的高い賃上げが実現し、人材の不足感も弱い傾向にあるとされており、人口減少が続き長期的にも人手不足が見込まれる中、賃金の納得性は、人材を惹きつける一つの要素としても重要と考えられます。

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エスマイル社会保険労務士事務所 社会保険労務士 三浦 敬子

福岡・北九州を拠点に社会保険労務士として、労使双方が共に満足できる職場づくりをサポートしています。企業が理想とする職場を実現するために、新しい時代に対応する支援メニューを提供いたします。

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