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奨学金返還支援制度と社会保険料の取扱い―制度を導入する際のポイント ―

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奨学金返還支援制度と社会保険料の取扱い―制度を導入する際のポイント ―

採用競争の中で注目される「奨学金返還支援制度」

2027(令和9)年度大学等卒業・修了予定者を対象とする採用活動スケジュールについて、令和7年12月26日付で厚生労働省から発表が行われました。これを受けて、令和8年3月1日から企業の採用へむけた広報活動も本格化する時期となりました。厚生労働省によると、2027年度卒業予定者の就職・採用活動日程は次のとおりとされています。

2027(令和9)年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程(厚生労働省HPより)

大学等卒業・修了予定者の就職・採用活動時期について令和7年12月26日開催の関係省庁連絡会議において、下記のとおり取りまとめられました。

  • 広報活動開始   :卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
  • 採用選考活動開始 :卒業・修了年度の6月1日以降
  • 正式な内定日   :卒業・修了年度の10月1日以降

近年、採用環境が厳しくなる中、企業では福利厚生制度の見直しや賃金制度の検討など、さまざまな人材確保の取り組みが行われています。求人票を出しても以前ほど応募者が集まらないと感じている中小企業も少なくありません。

こうした状況の中で、若手人材の採用や定着を目的とした施策の一つとして、「奨学金返還支援制度」を福利厚生として導入する企業も増えています。従業員の奨学金返済を企業が支援することで、応募者へのアピールや若手人材の定着につなげようとする取り組みです。

一方で、従業員の待遇を改善する施策を検討する際に、多くの経営者が気になるのが社会保険料との関係です。「従業員の支援はしたいが、社会保険の負担がどのように扱われるのかが分かりにくい」という声も少なくありません。 そこで今回は、奨学金返還支援制度(代理返還制度)と社会保険の取扱いについて、制度の概要と実務上の留意点を整理して解説します。

奨学金返還支援制度(代理返還制度)とは

企業が従業員の奨学金返済を支援する制度は、以前から福利厚生の一つとして行われてきました。従来は、奨学金の返済額に相当する手当を給与に上乗せして支給し、従業員がその金額をもとに奨学金を返済する方法が一般的でした。

これに対し、2021年4月から、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)において「奨学金返還支援(代理返還)制度」が創設されました。この制度では、企業が従業員に代わって、日本学生支援機構へ奨学金返還額の一部または全部を直接送金する方法が認められています。

奨学金と社会保険
独立行政法人日本学生支援機構HPより

奨学金返還支援制度のメリット(企業側・従業員側)

奨学金返還支援制度は、企業と従業員の双方にメリットがある制度として注目されています。

まず企業側にとっては、若手人材の採用や定着を後押しする施策として活用できる点が大きな特徴です。奨学金を利用して進学する学生は多く、就職後も一定期間返済を続けることになります。企業がその返済を支援することで、若手人材へのアピールにつながり、人材確保の面での効果が期待されています。

また、奨学金返還支援(代理返還)制度を利用する場合には、一定の条件のもとで、税務・社会保険上の取扱いが示されています。そのため、企業にとっては福利厚生施策として導入を検討しやすい制度の一つといえます。具体的には、企業側には次のようなメリットがあります。

企業にとってのメリット

  • 所得税が非課税となり得る
  • 法人税上、損金算入が可能となり得る
  • 社会保険の標準報酬月額の算定対象とならない場合がある

一方、従業員にとっても、奨学金返済の負担軽減につながる点が大きなメリットです。独立行政法人日本学生支援機構によると、制度を利用している従業員からは、下記のような声も紹介されています。

従業員にとってのメリット

  • 奨学金返済の負担が軽くなり、将来について考える余裕が生まれた
  • 支援を受けることで仕事へのモチベーションが高まった
  • 従業員を大切にしている会社だと感じ、会社への信頼が強くなった

このように、奨学金返還支援制度は、若手人材の採用や定着につながる福利厚生施策として注目されています。もっとも、制度導入を検討する際には、社会保険上の取扱いについて理解しておくことが重要です。

奨学金返還支援制度と社会保険の取扱い

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奨学金返還支援制度を検討する際に、企業が特に気になるのが社会保険料への影響です。

社会保険では、健康保険法および厚生年金保険法において、「報酬」とは賃金、給料、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働の対償として受けるすべてのもの(健康保険法第3条第5項および第6項、厚生年金保険法第3条第1項第3号および第4号)とされています。

つまり、名称に関係なく、労働の対価として支払われるものであれば、原則として標準報酬月額の算定対象となり、社会保険料の計算の基礎に含まれることになります。

では、企業が従業員の奨学金返済を支援する場合、この支援金は社会保険上の「報酬」に該当するのでしょうか。

この点について、企業が奨学金返還支援(代理返還)制度を利用し、給与とは別に日本学生支援機構へ直接返還金を送金する場合には、返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかであり、従業員の通常の生計に充てられるものではないことから、原則として社会保険上の「報酬等」には該当しないとされています(厚労省:「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」(令和4年9月5日改正)および令和5年6月27日付の事務連絡)。

ただし、企業が奨学金返済相当額を従業員に手当などとして支給する場合には、その金額が必ず奨学金の返済に充てられるとは限らないため、「報酬等」に該当するとされています(厚労省「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」(令和4年9月5日改正)および令和5年6月27日付の事務連絡)。

この場合は、その手当を含めて標準報酬月額を算定し、社会保険料が決定されることになります。

制度導入時の実務ポイント

奨学金返還支援制度を導入する場合、従業員への支援を開始するにあたり、社内での運用が混乱しないよう、あらかじめ制度の内容や対応方法を整理しておきたいと考える企業も多いのではないでしょうか。

支援対象となる従業員の範囲、支援額の上限、支援期間、退職時の取扱いなど、実際の運用場面を想定すると、あらかじめ一定の基準を定めておくことで、制度運用を円滑にすすめやすくなります。

一方で、制度設計にあたっては社会保険上の取扱いに影響する点についても注意が必要です。

すでに見たように、企業が奨学金返還支援(代理返還)制度を利用し、給与とは別に日本学生支援機構へ直接返還金を送金する場合には、原則として社会保険上の「報酬等」には該当しないと整理されています。 ただし、一定期間の勤務を条件として奨学金返済相当額を貸付けるなどの方法を採る場合であっても、その実態が労働の対価としての性格を持つと判断される場合には、社会保険上の報酬とみなされる可能性があります。

まとめ

奨学金返還支援制度は、若手人材の採用や定着を後押しする福利厚生制度の一つとして、今後さらに関心が高まる可能性があります。一方で、これまで見てきたように、奨学金返還支援制度は支援の方法や制度設計によって社会保険上の取扱いが変わる点に注意が必要です。

そのため、制度導入を検討する際には、給与との関係が曖昧にならないよう、下記事項を、あらかじめ就業規則などで整理しておくことが望ましいといえるでしょう。

あらかじめ整理しておくこと

  • 奨学金返還支援制度の趣旨
  • 支援対象者
  • 支援方法(代理返還)
  • 支援額や支援期間

採用環境が変化する中で、福利厚生制度の見直しを検討している企業も多いかもしれません。自社の状況に応じて、どのような制度設計が可能かを整理してみることも一つの方法といえます。

北九州・周辺エリアで、労務管理や就業規則の整備、採用・定着施策についてお悩みの企業様は、社会保険労務士の視点から制度設計を整理することも可能です。制度の趣旨や運用方法を整理しておくことで、導入後の社内対応も円滑に進めやすくなります。

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